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こしょうがつにくるおぼめ
『小正月に来るオボメ』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 お前(め)、オボメ(産女)って知っでらっだか。
 小正月十五日の晩にナ、オボメどいっで、お産のとき難産で死んだオナゴが赤ン坊ば抱(かか)えで幽霊になって化げで来んならドォ。
 苦(くる)すんで苦すんで難産で、浮がばんねくて、恨(うら)めすくて、十五日の晩、便所さ出でくんならド。
 ほんで、小正月十五日は便所ば、すかっと掃除して、その晩は誰も行がねもんだった。朝までよォ。


 昔、山形(やまがた)の新庄(しんじょう)の戸沢藩(とざわはん)の家中(かちゅう)さ、馬場五郎右衛門(ばばごろうえもん)って、体格(なり)ァ人並みはずれて小(ちん)こえ人ァあっだド。 

 
 この人が、ある年の小正月、オボメ来るどて嫌って、誰も行がね便所さ、
 「オラ、オボメづう者ば、見でくる」
 どて、便所さ行ったド。肝(きも)の太ってえ人らったんだナ。
 便所さ行って屈(かが)んでいるっつうど、話の如(ごと)く、ざんばら髪の白装束のオナゴが、赤ん坊ば抱えて現(あらわ)ったけド。ほして、
 「あのォ、ちょっとの間、この赤ん坊ば抱いでで呉んねがァ」
 どて、赤ん坊ば突出したけド。五郎右衛門ァ、
 「ほい、きたり」
 どて、持ったらば、なんと、冷たえ赤ん坊らけド。
 ほぉして、奇態な事にゃ、ほの赤ん坊、ツツッ、ツツッて少しずつ大きくなってくんならドォ。
 五郎右衛門、ほれ見で、
 「これァうまぐない。うかうかしてっと、そのうちにゲロッで呑まれてしまうぞ」
 どて、刀抜いで、口さくわえで、赤ん坊ば抱えでいたけド。


 ほしたら、今度ァ、赤ん坊がツツッっと大きくなってきても、刀の刃さぶつかりそうになるっつうど、チャッと引っこみ、また、大きくなっては引っこみして、大っけぐならんねけド。
 そうこうしてるうち、赤ん坊ば頼んだ白装束のオナゴァ、ちゃァんと髪ば高く結い上げで、
 「大変えがったやァ、お侍さま。おかげさまで、今夜ァずいぶんと楽々と髪ば結う事出来だ。ありがでがった。
 ほの赤ん坊ば返してけろ。どうも、どうも。
 あのォ、何かお礼をしたいげんども、何か望みのものあったら聞かへでけろ。オレ、出げる事なら何とかするさえ。この御恩返すすねでァ気がすまねぇ」
 どて言うけド。五郎右衛門、
 「オレァ、何も望みごどァ無いげんの、できれば、力欲すえもんだな。オレさ力ば授げでけろ」
 どて、言ったってョ。オナゴァ、
 「ほだら、望み通りにしてあげます」
 どて言っで、姿ば消したけド。


 言われでみだもんの、五郎右衛門の身体には、何の変化もおぎね。
 「これァつまらねもんだな。何だが、狐(きつね)に化かさったみでら。金でも呉(け)ろって言った方が良(え)がったなァ。ほんでもオボメっづう者ば見だ、良がった。さァ寝ろわァ」
 どて、ほの晩は寝だって。
 
 次の朝、起ぎて、まず顔洗って、ほして、布巾(ふきん)ば、こう、捻(ね)じってみだれば、別に力入れたわけでァないげんの、布巾、ポロッともげ切れだけド。
 「おぉお、これァ、あのオボメの呉らった力だべな。ありがでえ、ありがでえ」
 どで、庭さ出て、重たい石ば持ってみだれば、クンクンッど軽々たながれっけド。
 それがもとで、「大力(たいりき)の馬場五郎右衛門」って言やァ江戸まで名ァ売れた侍らったてョ。
 五郎右衛門の話ァ、まだまだ続ぎがあんなラ。
 こういう話、オラ、父親から聞いだもんだ。

 どんべからっこねっけど。

「小正月に来るオボメ」のみんなの声

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感動

北海道の生まれですが、父から聞いた一番古い先祖の話が『明治になって山形から北海道に来た馬場五郎左衛門という侍だ』でした。 私も体は小さいです。怪力はありません。( 50代 / 男性 )

驚き

本当に力がついたからおどろいた。( 10歳未満 / 女性 )

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