民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 異界訪問にまつわる昔話
  3. 生き針 死に針

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

いきばり しにばり
『生き針 死に針』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むがしあったけど。あるところに父(とど)と母(かが)と小んまい男子(やろっこ)が住んでいだけど。
 正月二日に初夢見ると幸せになるというが、その男子だけが初夢を見だけど。
 四日の夢合わせで、父も母も、男子の夢を聞ぎでども、男子は教えねけど。
 なんぼだましてもすかしても教えねので、男子を箱に入れて海に流してしまたけど。
 流れ流れて、鬼ヶ島(おにがしま)に着いたところ、鬼がやって来て拾って行ったけど。鬼の館(やかた)で、
 「人間拾て来た」
というど。鬼婆(おにばば)さまは春陽(はるひ)の暖(あった)こえところさ寝ころんで、
 「しらみ見でくれ」
 ていうので、しらみをとってやると、気持ちよぐなてクラリ、クラリといねむりしったけど。

 
 男子があたりをながめると、舟のようなものがあったので、
 「婆さま婆さま、あれ、何するものだぞし」
 て聞ぐど、鬼婆さま、半分眠っているだはで分別ねぐなって、
 「あれが、あれは千里(せんり)馳(は)しる舟で、ともの方を握りこぶしでトンと叩(たた)ぐど、千里馳せる舟だ。」
 ていうけど。
 またながめると、箱みだいだ物があるので、
 「婆さま、婆さま、あの箱はなんだぞし」
 て聞ぐど、
 「あれが、あれは死に針、生き針というもんで、こっちの方でチカチカンと刺(さ)せばすぐ死んでしまうし、こっちの方でチカチカンと刺せばすぐ生きかえるもんだ、ムニャムニャ」
 て、教えでくれだけど。


 婆さまは気持ちよぐなって、グウグウて眠むてしまたので、男子は針箱をもって、千里馳せる舟に乗って、舟のともをコンコンと叩いだば、さあ、たったたちまじ、千里も馳せって、運よく酒田の港さ着いだけど。
 そこで、舟のともをコンと叩いで押し出してやるど、また、千里も馳せって舟は見えなぐなてしまたけど。
 男子は針箱を持って行くが行くが行くと、大きな柳の木があって、その下に馬食(ばくろ)うと白い馬がいたので、死に針を試してみようと思て、馬の額(ひたい)をチカチカンと刺したば、馬はハーンて鼻息(はないき)吐(は)いて死んだけど。
 馬食(ばくろ)うは、
 「何で急に死んだべ」
 て、行ってしまたけど。
 そこで生き針をチカチカンと刺すと、今度はイーホホホと立ちあがったけど。


 男子はその馬さ乗って、シャンシャンと駆(か)けて町の中まで来たば、なんだが人がドヤドヤて往き来していだけど。聞いてみだば、
 「分限者(ぶげんしゃ)どのが、いま死んだどこだ」
 て、騒(さわ)いでいだので、分限者どのの家さ行って、
 「こんにちは、こんにちは、分限者どご生がして呉(け)るがら、見せでくれ」
 て頼むど、親類衆が相談して、
 「こげだ乞食(こじき)みでだ者に見せでも何ともならね」
 て、いうど。
 「いやいや、そうでもねもんだ。生がしてくれるというがら、見でもらった方が良(え)でねが」
 て、いうごどになったけど。

 男子が分限者の額をなでるまねして、生き針でチカチカンて刺したば、
 「おお、こわがった。死んで三途の川(さんずのかわ)渡った夢見でいだ」
 て、生きかえったけど。


 よがった、よがった、て、たくさんご馳走(ちそう)なって、三方(さんぽう)さ大判小判を貰(もら)って、また白い馬さ乗ってカンカンど走って家さ帰ったけど。
 「母や父や、金うなるほど背負て来た」
 ていうたら、
 「やろやろ、なに寝ごといってる。昼間になったさげ起ぎれ」
 て、いわっだけど。
 したば、その男子は小便ゴッチャリたれで、夢見でいたなだけど。

 とっぴんからりん ねけど。

「生き針 死に針」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

それなら、 生き針と死に針を同時にさしたらどうなるんだろう( 10歳未満 / 男性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

黒姫物語(くろひめものがたり)

昔、信濃(しなの)の国(くに)に黒姫(くろひめ)という大そう美しい姫がおったそうな。うわさを聞いては遠い国からも姫を嫁にという話があとをたたんかった…

この昔話を聴く

雲雀金貸し(ひばりかねかし)

むかし、むかしの、大昔。あるところにヒバリがおって、金貸しを商売にしておったと。お日さまにお金を貸して、だいぶん日が経ったので、催促(さいそく)に行…

この昔話を聴く

烏と鷹(からすとたか)

むかしは染物(そめもの)をする店を普通(ふつう)は紺屋(こうや)と呼んだがの、このあたりでは紺屋(くや)と呼んどった。紺屋どんは遠い四国の徳(とく)島からくる藍玉(あいだま)で染物をするのですがの、そのやり方は、藍甕(がめ)に木綿(もめん)のかせ糸を漬(つ)けては引きあげ、キューとしぼってはバタバタとほぐしてやる。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!