― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに爺(じ)さまがあったと。
秋祭りがきて、町(まち)に市(いち)が立った。爺さま買い物に出かけたと。
町ではピーヒャラ、ドンドンと笛太鼓が鳴り響き、浴衣(ゆかた)に下駄(げた)履(ば)きの人達が晴れやかな顔して、あの店、この店をひやかしている。賑やかだと。
爺さまも、あれを見、ここをのぞきして楽しんでいたら、はや暮(く)れ方(がた)になった。
「早よう帰らにゃ。婆さまが心配する」
いうて、魚と菓子を買うて帰ったと。
ススキのいっぱい生(は)えている野っ原にさしかかったら、狐が一匹、ピョンコ、ピョンコ跳(は)ねて戯(たわむ)れていた。
爺さま、一ちょ捕(と)っ掴(つか)まえてくれっか、と、風下(かざしも)から腹這いになって、こそっと近づいた。
尾っぽを握(にぎ)り捕(と)るべと手を延(の)べたら、狐はひょいと跳ねて、爺さまの腕一本分遠ざかった。爺さま、ひと這いして、また掴まえるべと、狐はひょいと逃げる。またひと這いして手を延べたら、またもやひょいと逃げる。ようやく、さっと掴まえたと思ったら、ススキの花ばかり握っていたと。
狐の姿も見失って、ふと我にかえった爺さま、あたりを見まわしたら、いつの間にか野っ原の中程(なかほど)まで来ていたと。あわてて道へ戻ったら、道端に置いといた市(いち)で買うてきた魚と菓子が無くなっていた。
「ありゃぁ、狐に盗(と)られた」
爺さま、まんまるい大っきなお月さまに照らされて、とぼら、とぼら帰ったと。
爺さま、婆さまにひやかされたと。
次の日、爺さま、また、市に買い物に行ったと。家を出るとき、
「いっちょ、仇(あだ)討(う)ってやらねば気が済(す)まねぇ」
とて、ひと握り、塩を握って来た。
野っ原に分け入(い)って、昼寝をしているふりをして待ったと。
すると、やっぱり狐が出てきて、
「こりァ、こりァ。昨日(きのう)おれからだまされた爺さまでねぇか。気持ちよさげに昼寝をしてござる。ようし、いっちょ小馬鹿にしてやんべ」
とて、葉っぱ頭にのせて、くるっと回って、爺さまの孫童(まごわらし)に化(ば)けたと。
爺さま、薄目(うすめ)あけて見ていたら、その孫童、ちょこちょことかたわらへ近寄ってきた。
爺さま、さっと手を延べて、今度ァ、その孫童の手を掴んだ。
「さぁさ、爺と寝るべ、寝るべ」
いうて抱(かか)えて、ドタバタする孫童の口へ、塩を無理やり突っ込んでやったと。孫童は、
「爺さま、爺さま、何するや」
と叫んで、ススキの奥藪(おくやぶ)へ逃げて行ったと。
その日の晩方(ばんがた)、爺さまが市(いち)から買うた魚と菓子を持って野っ原に差しかかったら、ススキの藪奥(やぶおく)から、狐が、
「やぁや、塩っぱい爺さま行く、塩っぱい爺さま行く」
とて、弥次(やじ)ったと。
爺さま、まんまるい大っきなお月さまに照らされて、ぴょんとひと跳ねしてやったと。
どんぺからっこねっけど。
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むかし、ある村にひとりの男があったと。山道を歩いていたら、日が照っているのに雨がパラパラ落ちてきた。天を仰いで、「ほ、こりゃ狐の嫁入り日じゃ」いうとったら、いつの間にやら、少し先を娘が歩いちょる。
「塩っぱい爺さま」のみんなの声
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