― 山形県 ―
語り 井上 瑤
採話 滝口 国也
再話 六渡 邦昭
むがし、むがし、いつの頃だが知らねけどあったけど。
殿様が、世間の人々を悩ませで面白がっていたど。
あるどき、染物たのみだ、といって、一番上手な染物屋に、真白い絹の反物をひとつ、染めに出したけど。
「狐の鳴き声に、トウタラズの模様をつけで、十日間の内にできあがらせろ。もし、でがさねば、染物屋を止めさせる。でぎた時には、思い通りの褒美をやる」
と、いったけど。
染物屋の旦那は、
「狐の鳴き声なんて、染めることは出来ん。トウタラズなんて知らん」
と、思ったが、殿様のいいつけでは断るわけにもいかねので、引き受げたけど。
それから旦那は、毎日毎日考えでも考えでもいい恩案が浮ばないので、飯(まま)も食わねで寝でばかりいたけど。そしたら、嬶(かか)が、
「なして、ほだえ寝てばかりいるなや。身体(からだ)でも悪いのだが」
と、聞いたけど。
「何でもない」
と、旦那がいうど、嬶は、そんではきっと、染物の事でも考えでいんだなあ、と気づいて、
「考え込む病気は、寝てだって身体に毒だ。自分の好きなごとをして気持ちを柔らげれば、良い考えも浮がぶべな」
と、いったけど。
旦那は、なるほど、ど思っで、隣りのお寺さ遊びに行ったけど。
和尚様ど将棋さしているうちに、考え込んでいだことがつい言葉に出た。
「狐の鳴き声」
といって、パチリと駒を進めたら、和尚様は、
「コンと鳴く」
といって、これもパチリと駒を進めだけど。
次に旦那が、
「トウタラズ」
といって、駒を進めたら、和尚様は、
「九曜(くよう)の星(ほし)」
といって、また、駒を進めだど。
旦那は、ハッとしだど。
「今、和尚様何と言った」
「九曜の星といった」
「そ、それだ、九曜の星って、何だ」
「九曜の星の曜というのは、天(てん)のことだな。九(く)というのは時刻のここのつどきのことだ。ここのつどきは真っ昼間と真夜中と二度あるけど、星というからには真夜中のこどだ。つまり、真夜中の夜空の星のことだな」
これを聞いた旦那は、
「解(と)けたぁ」
というなり、将棋さしをやめで、家に一目散で走って戻ったけど。
旦那は家に帰るとすぐに、九曜の星の下絵を画き始めたけど。
何枚も何枚も画いては捨て画いては捨てして、やっと絵が出来上がったけど。
そして今度(こんだ)ぁ、染めにかかったど。染め上がると今度ぁ、川の水に流して洗ったど。洗いおわると今度ぁ、干しにかかったど。その間寝もしない飯も食わねかったけど。そうやって、やっと狐の鳴き声にトウタラズの模様のついた反物が出来上ったけど。
期限が来たので殿様は、
「でぎだがぁ」
といって染物屋に入って来たど。
「この通りでございます」
といって、染物屋の旦那はさし出したど。
殿様が見たら、絹の反物には、紺色の地に真夜中の星々を散りばめた、みごどな模様がえがかれてあったけど。
「ああ、みごど、みごど。よぐも考えだ」
とほめてくれたけど。
染物屋の旦那は、たくさんの褒美をいただいだほがに、御用染物屋として暮らすこどが出来るようになったけど。
ほだから、今の世でも、困ったごどなどあるどぎは、友達とお茶でも飲んで知恵を交換するようなごども大事なんだど。
ドンビン。
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むかし、むかし。ある国にとても厳しいきまりがあったと。六十歳になった年寄りは、山へ捨てに行かなければならないのだと。その国のある村に、ひとりの親孝行な息子がおった。母親が六十歳になったと
「九曜の星」のみんなの声
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