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ぶんごときつね
『文吾と狐』

― 和歌山県 ―
語り 井上 瑤
再話 守谷 信二

 昔、ある村に文吾(ぶんご)ゆうて、えらい、負(ま)けん気な男がおったそうじゃ。
 ある日、村の衆(しゅう)が文吾にこうゆうたと。
 「近頃(ちかごろ)、下(しも)の田んぼに悪戯(わるさ)しよる狐(きつね)が出て、手がつけられん。何とかならんもんかいの」
 それを聞いた文吾は、いつもの負けん気でいばってゆうたそうじゃ。
 「何をアホな事を。狐が人を化(ば)かすなんぞ、あるもんでねえ。ようし、ひとつ明日おれが退治(たいじ)して来てやるべえ」

 翌日(よくじつ)、文吾はさっそく下の田んぼへ出かけて行ったと。


 文吾が田の畦(あぜ)に腰(こし)をおろして、ゆうゆうとたばこをふかしておると、どうじゃろう。
 向(む)かいの藪(やぶ)の中から、子狐(こぎつね)が一匹出て来て、クルリッと転(ころ)げたかと思うと、きれえな娘(むすめ)に化けたんじゃと。
 「こりゃ、たまげた、娘に化けよったわい」
 文吾がびっくりしておると、娘は田んぼの脇(わき)の一軒家(いっけんや)にスルッと入って行きおった。
 「こりゃええ。狐が人を化かすとこなんぞ、めったに見られるもんでねえ」
 文吾が戸口(とぐち)の節穴(ふしあな)からそっと中をのぞいてみると、娘は家(うち)の者(もん)と何やら楽しげに話はするし、ホカホカ湯気(ゆげ)のあがったまんじゅうまでご馳走(ちそう)になっておる。


 「なんとも呆(あき)れたもんじゃ、人さまの家でまんじゅうまで食(く)らうとは、たいした狐だわい。それにしても、家の者も家の者じゃ。狐とも知(し)らんで、茶まで出しとる」
 文吾はおかしくてたまらん。とうとう声を立てて笑(わら)ってしもうたと。
 すると娘は気づいたとみえて、まんじゅうをひとつ、ヒョイッと文吾にも差(さ)し出した。文吾はすっかり呆れ返(かえ)ってしもうた。じゃが、とにかく化かされたふりで、黙(だま)ってまんじゅうを懐(ふところ)に押(お)し込(こ)むと、座敷(ざしき)の様子をまばたきもせんと、見ておったと。
 「おい文吾、おめえ、牛(うし)の尻(しり)の穴(あな)のぞいて、いったい何してるだあ」
 大声(おおごえ)で呼(よ)ばれて、文吾はハッと気がついた。

 
 文吾がおるのは、畦道の真ん中じゃった。一軒家なんぞどこにもねえ。
 道ばたで草を食うとる牛の尻尾(しっぽ)を、グイッと持ち上げて、牛の尻に顔をくっつけておるもんだから、大勢(おおぜい)の村の衆が大笑いで見ておるだけじゃったと。懐には牛の糞(くそ)がつめこまれておってな。


 それからちゅうものは、文吾の負けん気もいくらかはようなったということじゃ。

「文吾と狐」のみんなの声

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