民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 狐が登場する昔話
  3. 文吾と狐

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

ぶんごときつね
『文吾と狐』

― 和歌山県 ―
語り 井上 瑤
再話 守谷 信二

 昔、ある村に文吾(ぶんご)ゆうて、えらい、負(ま)けん気な男がおったそうじゃ。
 ある日、村の衆(しゅう)が文吾にこうゆうたと。
 「近頃(ちかごろ)、下(しも)の田んぼに悪戯(わるさ)しよる狐(きつね)が出て、手がつけられん。何とかならんもんかいの」
 それを聞いた文吾は、いつもの負けん気でいばってゆうたそうじゃ。
 「何をアホな事を。狐が人を化(ば)かすなんぞ、あるもんでねえ。ようし、ひとつ明日おれが退治(たいじ)して来てやるべえ」

 翌日(よくじつ)、文吾はさっそく下の田んぼへ出かけて行ったと。


 文吾が田の畦(あぜ)に腰(こし)をおろして、ゆうゆうとたばこをふかしておると、どうじゃろう。
 向(む)かいの藪(やぶ)の中から、子狐(こぎつね)が一匹出て来て、クルリッと転(ころ)げたかと思うと、きれえな娘(むすめ)に化けたんじゃと。
 「こりゃ、たまげた、娘に化けよったわい」
 文吾がびっくりしておると、娘は田んぼの脇(わき)の一軒家(いっけんや)にスルッと入って行きおった。
 「こりゃええ。狐が人を化かすとこなんぞ、めったに見られるもんでねえ」
 文吾が戸口(とぐち)の節穴(ふしあな)からそっと中をのぞいてみると、娘は家(うち)の者(もん)と何やら楽しげに話はするし、ホカホカ湯気(ゆげ)のあがったまんじゅうまでご馳走(ちそう)になっておる。


 「なんとも呆(あき)れたもんじゃ、人さまの家でまんじゅうまで食(く)らうとは、たいした狐だわい。それにしても、家の者も家の者じゃ。狐とも知(し)らんで、茶まで出しとる」
 文吾はおかしくてたまらん。とうとう声を立てて笑(わら)ってしもうたと。
 すると娘は気づいたとみえて、まんじゅうをひとつ、ヒョイッと文吾にも差(さ)し出した。文吾はすっかり呆れ返(かえ)ってしもうた。じゃが、とにかく化かされたふりで、黙(だま)ってまんじゅうを懐(ふところ)に押(お)し込(こ)むと、座敷(ざしき)の様子をまばたきもせんと、見ておったと。
 「おい文吾、おめえ、牛(うし)の尻(しり)の穴(あな)のぞいて、いったい何してるだあ」
 大声(おおごえ)で呼(よ)ばれて、文吾はハッと気がついた。

 
 文吾がおるのは、畦道の真ん中じゃった。一軒家なんぞどこにもねえ。
 道ばたで草を食うとる牛の尻尾(しっぽ)を、グイッと持ち上げて、牛の尻に顔をくっつけておるもんだから、大勢(おおぜい)の村の衆が大笑いで見ておるだけじゃったと。懐には牛の糞(くそ)がつめこまれておってな。


 それからちゅうものは、文吾の負けん気もいくらかはようなったということじゃ。

「文吾と狐」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

山伏とキツネ(やまぶしときつね)

むかし。あちこちの山を巡り歩いて修行(しゅぎょう)をするひとりの山伏(やまぶし)がおった。ある日、野原を通りかかると、道端(みちばた)で一匹のキツネ…

この昔話を聴く

水乞鳥の不孝(みずこいどりのふこう)

むかし、あるところに、母と息子が二人で暮らしていた。母は息子を可愛(かわい)がっていたが、息子の方は少しも母の言う事など聞きはしない。その為に、母は…

この昔話を聴く

猫の名(ねこのな)

むかし、むかし、あるところに爺と婆があったと。爺と婆は二人暮らしでさびしいから、猫を一匹もろうてきて飼うていたと。しかし、その猫には名前がついてなかった

この昔話を聴く

現在886話掲載中!