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やまにおったくじら
『山におった鯨』

― 和歌山県 ―
語り 井上 瑤
再話 守谷 信二
再々話 六渡 邦昭

 この紀州(きしゅう)の国(くに)じゃのう、昔から十一月の七日は、山の神さんのお祭りじゃゆうて、猟師(りょうし)も樵(きこり)も決して山には入らんもんじゃった。
 というのはの、その日ィは、神さんが春に植(う)えなさった山の木ィを一本一本数えて回わるゆうてな。虫喰(むしく)いがなんぼ、立ち枯れがなんぼちゅうて、神さんえらい忙(いそが)しいさかいに、山におると、人でも何でも、まちごうて木ィといっしょに数え込んでしまうそうや。
 ずっと昔、まだ鯨(くじら)が海でのうて、山に棲(す)んどったころの話や。

 
 ある年の十一月七日のこと。
 山の神さん、朝からせわしのう木ィを数えておらしたと。
 「兎山(うさぎやま)の木ィも今年は立派(りっぱ)やし、むじな谷の木ィも上々や。はてさて、鯨山はどないやろ」
 山の神さん、ほくほく顔で鯨山まで来なさった。するとどうじゃろう。木ィという木ィが根こそぎ横倒(よこだお)しになっとった。まるで嵐(あらし)にでも会(お)うたようじゃったと。 

 「こりゃ、いったい何としたことや。鯨、鯨、おまえまた大あばれしょったな」
 神さん、えらい怒ってゆうたそうや。

 すると、鯨が、小さい目ェに涙いっぱいためて言うにはな、
 「こないに図体(ずうたい)が大きゅうては、あくびひとつで枝は折れるし、くしゃみふたつで木ィが飛ぶし、どないもこないも・・・。えらいすまんことです」
 あんまり鯨が泣くもんで、これには山の神さんもほとほと困ってしもうた。


 「そうか、そうか・・・。おお、ええことがあるわい。ひとつ海の神に頼んでみよう」
 そう言うて、一番高い山に登ると、大(おっ)きな声で怒鳴(どな)ったそうや。
 「おおい、海の神よ―。わしんとこの鯨、おまえの海で預かってくれんかの――」
 すると、しばらくしてはるかむこうから、海の神さんの声や。

 「おお、よかろう。なら、ちょうどええ。こっちもひとつ頼みじゃ。わしんとこの猪(いのしし)が、海の魚荒しまわって困っとる。おまえの山で預かってくれんかの――」
 その頃は、猪も海におったんやと。 

 
 こうして、二人の神さん相談(そうだん)してのう、鯨と猪をとりかえっこしょったそうや。
 それからちゅうもんは、鯨は広い海でゆうゆう暮らすし、猪は猪で山でガサゴソ暮らすようになったちゅうことや。
 そやさかいに、今でも鯨と猪は、よう似た味のするもんやそうな。

「山におった鯨」のみんなの声

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