― 鳥取県東伯郡 ―
語り 井上 瑤
話者 岡田 幹子
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに大きな寺がありましたと。
その寺では、なにかと事(こと)のあるときに、いつでもご馳走(ちそう)が檀家(だんか)から持ってこられて、仏(ほとけ)さんに供(そな)えられていましたと。
その日も、とってもおいしそうな小豆(あずき)入りのアンコロ餅(もち)が仏さんに供えてあったそうな。
和尚(おしょう)さんが、
「小僧(こぞう)や、小僧や。こんなは(これは)、わしが戻ってから食べるけな、そのままにしとけいよ」
と言っといて出られた。ところが、和尚さんが帰ってみるとアンコロ餅がない。
「ありゃ、食べずにおいとけって言ったに、小僧、お前食べてしまったな」
「食べりゃしませんぜ。本尊(ほんぞん)さんが食べられましたで」
「本尊さんが食べられるっちゅうことがあるもんか」
「でも、本尊さんの口の縁(へり)に、いっぱいアンコがついとりますわ」
和尚さんが見られたところが、ほんに本尊さんの口の縁に、いっぱいアンコがついとる。
「見なはんしな(ご覧なさい)。食べとられましょうがな」
「ウーン、そだなァ。そおんことがあるもんだかなぁ」
「ならまあ、これ煮(に)てみなはんせ」
和尚さんも人がええだけ、その本尊さんを大きな釜(かま)に入れて煮られなさった。そしたところが、クッタ、クッタ、クッタ、クッタって、煮え出いたや。
「見なんせえ、和尚さん。食った、食った言われますがな。本尊さん、食われたんは本当のふうですぜ」
「ウーン、本尊さんだけに、にわかには信じがたいが…確(たしか)にそう聞こえる。これ本尊さん、なぜにそんな行儀(ぎょうぎ)の悪いことをなされた」
と言って、和尚さん、仏さんの頭をゲンコツで叩(たた)かれた。
そうしたところが、クワーン、クワーン、って、音がした。
「見い、小僧。食わん、食わん、言われるがな」
こう言われまして和尚さん、仏さんの頭をなで、かえす手で、小僧さんの頭にゲンコツを食らわしなさったそうです。
むかしこっぷり。
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「和尚と小僧話(食った食わん)」のみんなの声
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