民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 化け物退治の昔話
  3. 猿に盗られた嫁さん

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

さるにとられたよめさん
『猿に盗られた嫁さん』

― 鳥取県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところに山(やま)の家(いえ)があって、猟師(りょうし)と嫁さんが一匹の犬と暮らしてあったそうな。
 ある日、猟師が犬を連(つ)れて猟に出かけた留守(るす)に、家の外がワサワサと騒(さわ)がしくなったと。
 嫁さんが、「何じゃろな」というて外に出てみたら、たくさんの猿たちが家をとり囲(かこ)んでおった。「きゃっ」と叫(さけ)んで、あわてて家(いえ)の内(なか)に戻(もど)ろうとしたら、でっかな親分猿に捕(と)らえられた。嫁さんは、猿たちの棲み家(すみか)のある奥山(おくやま)へ、さらわれてしまったと。 

 
 漁師が猟から帰ってきたら、家には嫁さんの姿がない。いっくら呼んでも出て来ん。
 「はて、妙だな」
と思うて調べてみたら、そこいらじゅうに獣(けもの)の足跡(あしあと)がついている。
 「こりゃ猿の足跡だ。しかもこんなにたくさん。さては猿どもに連(つ)れ去(さ)られたか。こりゃおおごとだぁ」
 漁師は鉄砲(てっぽう)を持って、犬を連れ、山の奥へ奥へと分(わ)け入(い)った。

 猿の移動はワタリといって、木から木へ渡って行くのだが、猟師は猿のワタリの道を識(し)っておったと。
 いくがいくがいくと、猿の家があって、猟師の嫁さんは独人(ひとり)座(すわ)って縫(ぬ)い物をしておった。あたりに猿のいる気配はせん。


 「よかった、無事だったか。さあ帰ろう」
 「いや、もうすぐ猿が戻ってくる。逃げる暇(ひま)は無いけえ、急(いそ)いでアマダへ隠れておくれ。なんぼあんたが鉄砲持っていても、あれだけの数の猿にはとてもかなわないから」
 アマダというのは中二階(ちゅうにかい)の物置(ものおき)のことで、猟師をアマダへ押しあげると、もうそこへ、わやわやと猿の声が聞こえてきたから、犬には餅搗き臼(もちつきうす)をかぶせておいた。

 猿の親分は、戻ってくるなり、
 「どうも人間臭いぞ。誰(だれ)ぞ来(こ)りゃせんだったか」
というて、そこいらじゅうを嗅(か)いで回ったと。
 「いや、人間なんぞ、来やしません」
 「ほんならどうしてこげな匂いがするのかのう。おい、誰か占(うらな)いさんを呼んでこい」
 「へい」
 子分の猿がすぐに走って行って、三本足の占い兎(うさぎ)を連れてきた。


 三本足の占い兎は、錫杖(しゃくじょう)をジャラジャラ鳴らして占ったと。親分猿が、
 「占いは、何と出た」
ときいたら、三本足の占い兎は、
 「ポンと放(はな)てば親猿とられる。搗き臼倒せば子猿がとられる。油断をすりゃあ自分もとられる ― と出た。もうここは恐いけぇ、帰らせてもらいますで」
というて、逃げるように帰って行った。
 猿の親分は、囲炉裏(いろり)の横座(よこざ)に座って、
 「― ポンと放てば親猿とられる ― とは何のことなら。うーん」
と考えこんだと。
 アマダに隠れていた猟師は、その親分猿をねらって、鉄砲をポンと撃(う)った。
 それが合図(あいず)のように、すかさず、嫁さんが搗き臼をひっくり返した。犬がとび出て子猿に噛(か)みついた。


 この出来事に他の猿たちは、たちまち逃げ散ったと。
 隠れていた猟師と犬は、逃げる猿たちを威(おどか)してから嫁さんの元へかけ寄った。嫁さんは、
 「よかったぁ。猿に命をとられるかと思うとった」
 いうて、猟師に抱きついたと。
 「さて、この猿めをどうしてくれようか。大きなやつだから、とても運べんぞ」
 「肝(きも)は薬になるっちゅうから、それだけ持ち帰りましょう」
 漁師と嫁さんと犬は、親分猿の肝を土産に家に帰った。それからのちは、何事(なにごと)もなく、しあわせに暮らしたと。

 むかしこっぷり。

「猿に盗られた嫁さん」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

お嫁さんがさらわれたときは、大丈夫かなと思ったけど結果大丈夫でした。

こんなおはなしも聴いてみませんか?

モグラの嫁入り(もぐらのよめいり)

あったそうな。あるところに、モグラが一匹いたんだと。そいで、それが子供産んだら、とってもいい子が産まれたんだって。「こんないい子を、モグラんとこなん…

この昔話を聴く

またぎと旅人(またぎとたびびと)

昔、昔なァ。横手の辺りさ草コぼうぼうおがってえた頃、その中さ、ポツンと二軒の家(え)コ並んでたけど。一軒な、またぎで、もう一軒な百姓(ひゃくしょう)…

この昔話を聴く

鮭の大介・小介(さけのおおすけ こすけ)

むかし、越後の国、今の新潟県の、ちょうど信濃川が海にそそぐあたりの町に大きな屋敷をかまえた長者があったと。ひろびろとした田んぼとたくさんの舟を持ち、…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!