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えどけんぶつ
『江戸見物』

― 東京都 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 むかし、むかし。
 ある田舎(いなか)の分限者(ぶげんしゃ)が江戸見物にでかけることにしたと。
 なにしろお江戸は初めての町。聞くところによれば、江戸は大層(たいそう)ぶっそうなところで、道を歩くにも少しの油断も出来ないという。


 そこで分限者は、供の男衆(おとこし)に風呂敷包(ふろしきづつ)みをしっかり持たせて出かけたそうな。
 江戸までの道中は、温泉に泊まってうまい酒を呑(の)んで、うまいおごっそう食べたり、舟で川下りをしてみたり、何の心配もいらないのんびりした旅だったと。


 ようやく江戸についた。
 道の両脇には大きな店屋が並んで、なんでも売ってるし、道には田舎とはくらべようもないほど人が多く、動きがいそがしそうだ。
 
江戸見物挿絵:福本隆男


 「なるほど、話しに聞いたとおり、お江戸は繁昌(はんじょう)な町じゃ。これ久作、あれこれ気をとられて手に持っている風呂敷包み、おろそかにすまいぞ」
 「ヘイ、旦那様」
 「よしよし、ほほう、どっちを向いても別ぴんな女ごばかりじゃのう。久作、包は大丈夫(だいじょうぶ)か」
 「ヘイ、これ、このとおり」
 「よしよし、お江戸は危ないところというからの、油断(ゆだん)は禁物(きんもつ)じゃ。包を盗(と)られぬよう気をつけるにこしたことはない。のう久作」
 「ヘイ、旦那様」


 「ほほう、あのおカゴに乗っていかれるのは、どこのお武家(ぶけ)さんかのう。立派(りっぱ)なおカゴじゃのう。ところで久作、包は持っとるな、どうも気にかかってならんわい」
 「もっております」
 「よしよし、こんなに人間の多いところでは、気をつけにゃならんわい。それにしても気にかかるのう。これ久作、包はまだあるじゃろうのう」


 「そ、それが旦那様、申し訳ござりません、今の今、盗られました」
 
江戸見物挿絵:福本隆男

 「なに、盗られたとな。そうかそうか、いや、どうやらこれで、ようやく気がおちついたわい」
 
 おしまい。

「江戸見物」のみんなの声

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思わず笑っちゃいます!盗られたんかーい!ってツッコミたくなる。( 40代 / 女性 )

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