のぞいていたのが馬のお尻の穴だったのが驚きました。( 10歳未満 / 女性 )
― 徳島県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに博奕(ばくち)打ちがおったと。
ある晩、村の在所(ざいしょ)へ博奕を打ちに行ったら、すってんてんに負けてしもうた。夜道をとぼらとぼら歩いていると、いつの間にやら、少し前をお高祖頭巾(おこそずきん)をかぶった女がひとり歩いとった。振り返ったのを月明かりで見たら、見たことのない顔だ。
「はて、どこのだれじゃろ。それにしても、この夜更けにたった一人で出歩くとは……。まてよ、こりゃあ話に聞いていた狸(たぬき)のしわざにちげえねぇぞ。ようし、捕(とら)えて懲(こ)らしめてやろ」
追いかけて、えり首をつかんで引き倒したと。
「あれ、何をなはる」
「なはるもくそもあるか。このど狸め」
「ご免なして、ご免なして、たしかに狸だす。けんど、今夜はあんたを化かすとて出たんとはちがう」
「ほんなら、だれをだますとて出たんなら」
「この向こうの多七(たしち)つぁん夫婦をからかって、夫婦喧嘩(ふうふげんか)をさせに行きよるだす。それは面白い喧嘩が見られるんだす。あんたもご覧なはらんか」
博奕打ちは、多七夫婦の喧嘩は面白いと確かに聞いていたので、一ぺん見てみよかという気になって、狸の女を許したと。
多七夫婦の家に着いたら、狸の女は、
「あんたは向こうへ廻(まわ)って、窓障子(まどしょうじ)から覗(のぞ)きなはれ。私は戸口(とぐち)から入って行くけに」
と言うた。
博奕打ちは、言われた通りに窓障子のところへ行った。あいにく覗けるような隙間がなかったので、指につばをつけて障子紙に穴を開けた。多七夫婦は寝ていたと。
これでは喧嘩なんぞ始まるどころでない、と思っていると、狸の女が表戸(おもてど)を叩いて、
「多七つぁん、多七つぁん。あの、ちょっと話がありますけに、出て来ておくれな」
と、やさしい声で呼びかけた。
多七がようやく目を覚まして表へ行こうとしたら、女房も目を覚ました。戸口ではやさしい女の声がする。
「あんた!あの声は何よ」
「お、おら、知らん」
「知らん女がこんな夜更(よふけ)にどうして訪ねて来るんよ」
「そんなこと言われたって、おら、知らん」
「ああ、くやしい」
女房は、多七の胸をぶつやら、顔をひっかくやら、大騒ぎが始まった。
「さあ、面白くなってきやがった」
博奕打ちが障子の穴を大きくしようと、指をなめては穴をえぐり、指をなめては穴をえぐりしていたら、ドガンと胸をどつかれてばったり倒れた。気を失ったと。
しばらくして気がついたら、目の前に大きな馬の尻があった。
そこは多七夫婦の家ではなく、とある農家の馬小屋だった。今まで障子の穴だと思って指でえぐって覗いていたのは、何と馬の尻の穴だったと。
胸をドガンとどつかれたと思うたのは、その馬に蹴(け)られたのであったと。
「あの狸の女め、おらを化かすとて出たんとはちがうと言うたのにぃ」
博奕打ちはこの夜、博奕に負けるは、狸に化かされるは、馬に蹴られるは、さんざんな夜だったと。
むかしまっこう 猿のつびゃぁぎんがり。
のぞいていたのが馬のお尻の穴だったのが驚きました。( 10歳未満 / 女性 )
盆の十五日に送られたご先祖(せんぞ)さまは、道々自分の子孫(しそん)たちの接待降りやごちそうの話をしたり、また、土産物(みやげもの)など出して見せあったりするのだそうな。
「馬の尻のぞき」のみんなの声
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