地元にこんなお話があったなんて知りませんでした。子どもたちに聞かせたいお話です。ありがとうございました。( 50代 / 女性 )
― 栃木県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、ある村を流れる川に河童が住んでいたと。
河童は子供や馬を川の中へ引きこんだり、畑を荒らしまわったり、悪さばかりしておった。
ある日の夕方、村の和尚さんが川辺(かわべ)りの道を歩いて来たら、
「和尚さん、どこの帰りだ」
と、声がした。和尚さん、あたりを見たがどこにも人らしき姿がない。
<ははーん、こりゃ、河童だな>
と、すぐに気がついた。
「うむ。川下(かわしも)の作兵衛(さくべえ)ん家(ち)で法事があっての、今、帰りだ」
「手にぶらさげとるのはなんだ」
「ン、これか。作兵衛ん家でもろうた土産(みやげ)だ。」
「ハハーン、用があるのはわしではのうて、これじゃったか。ハハ、そうじゃったか。よしよし。寺に帰ってもどうせ一人、お前と話をしながら呑み食いした方が、なんぼかましじゃの。ほれ隠れとらんと、出てこんか」
河童が水辺(みずべ)りのこんもり繁(しげ)った草陰(くさかげ)から姿を現わした。
和尚さんと河童は、まっ赤な夕陽に照らされながら、川辺りの岩の上で、作兵衛ん家からもろうてきたごちそうを食べ、ハンニャトウを呑んだと。
「ほれ呑め、もっと呑め」
和尚さんから上手にすすめられて、河童はハンニャトウをグビグビ呑んだ。呑んで、呑んで、いい心持ちに酔ったと。
酔っぱらった河童がいうには、この川にも、以前は大勢の河童が住んでいた。
ところがあるとき、一本の刀が川に投げ込まれ、底に突き差さった。
その刀で河童の子供が幾人(いくにん)も怪我をした。河童は鉄にはからきし弱い。おまけに、鉄は鉄でも刀はキラキラ光っている。
恐(おそ)ろしくて、恐ろしくて、とうとう、この川に住んでいた一族は他所(よそ)へ引っ越すことにした。
その頃、この河童だけが、川上の、ずっと上の枝(えだ)岐(わ)かれした別の川へ探検に行っていて、戻って来たときには、誰も居なくなっていた。どこへ行ったかも知れなかった。
この河童も川底に突き差さっている刀は恐(こわ)かったが、いつか一族が戻って来るかも知れないと思い、一人ここに残っている。
毎日、話相手も居なくて、さみしくて、それで人間の子供や馬にちょっかいを出していた。
ちょっかいを出せば、大勢の人達がやってきて大騒ぎをする。誰もがこの河童を探しはじめる。それが嬉しかった。
と、まあ、だいたい、こういうことであったと。
和尚さんは、この河童があわれになって、いままでの悪さを叱(しか)る気になれん。
「話相手が欲しくなったら、寺へおいで。食い物も少しはあるし、たまには、このハンニャトウも呑めるぞ」
というた。
河童は、それからは度々(たびたび)寺(てら)へやってきたと。
手土産(てみやげ)に川魚(かわざかな)を持ってきて、囲炉裏で焼くことや、ハンニャトウをオカン(燗)することも覚えたと。
「人間っていいなあ。俺、生まれ変われるなら、次は人間になりたい。和尚さん、どうか祈ってもらいてえ」
「よし、よし、祈ってやるぞ」
こんな話もして、寒い冬を過し、春になった。村人たちは田圃(たんぼ)仕事や、畑仕事に精を出した。馬を洗いに川にも入ったが、河童はちょっかいを出さなかったと。
夏が来て、暑い日が続いた。その夏は雨が降らんかったと。日照(ひで)り、日照りの毎日で、畑も田圃も土割(つちわ)れが出来、作物(さくもつ)が枯(か)れる寸前(すんぜん)になった。
村人たちは大火(おおび)を燃やしたり、太鼓を叩いたりして雨乞いをしたが、雨は一粒も降らん。
そんなある日、和尚さんが河童を供(とも)なって雨乞いの場へやってきて、
「村の衆、この河童の話を聞いてやってくれんか」
というた。
村の衆は、和尚さんの口添えだもの、押し黙って河童を見たと。和尚さんに、
「ほれ、言うてみい」
といわれて、河童は、
「俺は村の人たちに迷惑ばかりかけていたが、和尚さんによくしてもらってから、何とか、いままでのお詫びをしたいと思っていた。
村の衆が、雨が降らなくて困っているのを見て、これなら、俺の力が役に立つかも知れないと考えた。雨乞いを俺にも手伝わせてほしい」
というた。村長(むらおさ)は、
「それはありがたい。ぜひ、やってもらいたい」
というた。
河童はうれしくなって、ヤグラの上にのぼり、一心(いっしん)に水神さまに雨乞いをはじめたと。
一日目は何事もおこらないで、二日目になった。河童は飲まず食わずで祈った。お陽様に焼かれて皮ふのぬめりが無くなり、頭の血の水なぞとうに無くなっていた。意識がもうろうとして命もつきようとしていたと。
そのとき、黒雲が湧(わ)いた。もくもくと、空一面に広がって、雨粒が落ちてきた。それが、たちまちドシャ降りとなった。
「雨だ、雨だ」
村人たちは大はしゃぎだ。
「さすが河童だ。村の恩人だ」
というて、ヤグラの上の河童を見やると、河童は倒れていた。村人数人があわててヤグラへのぼり、河童をおろして、和尚さんに抱かせた。
河童はそのまま息を引きとったと。
和尚さんと村人たちは、河童を寺へ運んでねんごろに葬(とむら)ってやったと。
和尚さんから、河童の願いを聞いた村人たちは、
「人間に生まれ変わったら、きっと、この村へ来てくれろ」
と、掌(て)を合わせたと。
おしまい。
地元にこんなお話があったなんて知りませんでした。子どもたちに聞かせたいお話です。ありがとうございました。( 50代 / 女性 )
むかし、あるところに大きな酒屋があったと。 酒屋には一人娘(むすめ)がいて、顔は目も覚めるほどの美しさなのに、手足は蛇(へび)そっくりの肌で蛇鱗(うろこ)がびっしり着いてあったと。
むかし。武蔵国のある村に、いたずらなタヌキがこっそりすんでいたと。いたずらでな、嫁どりの土産をもって千鳥足で帰っていく三平どんを見つけると、ドロンと、きれいな娘さまに化けて
「河童の雨乞い」のみんなの声
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