猿がたこにつかまるのが面白い
― 島根県 ―
語り 井上 瑤
再話 田中 瑩一
整理・加筆 六渡 邦昭
とんと昔あったげな。
ある夏の日、海端(うみばた)でたこさんが海からはい上がって昼寝(ひるね)をしておったら、そこへ猿(さる)さんが出て来て、おいしそうなから思って、たこさんの足を一本食べてしまったと。
挿絵:福本隆男
しばらくして、たこさんが目がさめて見たら、足が一本足らん。
「こりゃ、どげしたことだ。何ぞか来て一本食べたにちがいない。一体だれが来て食べたやら。おおかた明日も出てくるだろうから、今度は寝(ね)たふりしておって、正体(しょうたい)を見とどけてやらにゃならん」
というて、あくる日また、海から上がって来て砂浜で寝たふりをしておったと。
そしたら、猿さんが、
「昨日はタコの足一本食べたら本当にうまかった。今日もまたたこさん、おおかた海から上がって昼寝しちょうけに、行って食べちゃろう」
というて、山からのそのそ下りて来たと。
寝たふりしちょった、たこさん
「いや、この猿さんが来て食べたもんだ。とらえちゃろう」
思うて、猿さんが来て足を食べかけたところを、残った七本の足で、くるっとからめとったと。
手も足も胴も頭もからめとられた猿さん、どうしょうもないと。
挿絵:福本隆男
「悪かった。昨日は確かにおらがたこさんの足一本食うた。うまかった。あ、いや、悪かったども、まあ、こらえてごせ」
「うんにゃ、許さん」
「ほんなら、この世のなごりに、おらにひとつ歌うたわせてごぜ」
「それくらいなら、まあ、よかろう」
そこで猿さん、盆歌うたぁたと。楽しそうに歌ぁたと。
猿さんがあんまり楽しそうなので、たこさん、つい、つられて、
「ヤーン ハート ナーイ」
と、合いの手を入れて踊(おど)ったと。踊りだしたひょうしに、猿さんをからめとっていた手足がほどけたと。
挿絵:福本隆男
猿さん、その間をのがさず、跳(と)んで逃(に)げたと。
むかし こっぽし。
むかし、あるところに富山(とやま)の薬屋があった。 富山の薬屋は全国各地に出かけて行って、家々に置き薬していた。一年に一回か二回やって来て、使った薬の分だけ代金を受け取り、必要(いり)そうな薬を箱に入れておく。家の子供(こども)は富山の薬屋がくれる紙風船を楽しみにしたもんだ。
「たこと猿」のみんなの声
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