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きっちょむとうしのけさんぼん
『吉四六と牛の毛三本』

― 大分県臼杵市野津町大字野津市 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、豊後の国、今の大分県臼杵市野津町(おおたいけんうすきしのつまち)大字野津市(おおあざのついち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという、とても面白(おもしろ)い男がおった。
 頓知働(とんちばたら)きでは、誰(だれ)一人かなう者がないほどだったと。
 あるとき、吉四六さんの叔父(おじ)さんが用事で二、三日旅をすることになった。
 「吉四六や、留守(るす)の間、この黒牛(くろうし)をあずかってくれんかえ、土産(みやげ)を買(こ)うちくるき」
 「へい、ようがす」
 「ちゃんと世話もしちくるるかえ」
 「へい、ようがす」
 叔父さんは、一頭の黒牛をあずけて出掛けて行った。

 
吉四六さんがその牛を門口(かどぐち)へつないで、草をやって手入れをしていると、そこへ、牛買いの商人(あきんど)が通りかかった。
 「ほほう、吉四六さんにしては、いい牛を持っちょるのう。どうじゃ、その牛を売らんかえ」
 吉四六さん、考えた。
 もともと自分の物じゃなし、売ってしまえば銭(ぜに)は入るし、世話はやかないですむし。
 「よし、いくらで買う」
 「十両(じゅうりょう)でどうじゃ」
 「ようがす。売りやしょう」

 
吉四六と牛の毛三本挿絵:福本隆男

 牛買いが、吉四六さんの気が変わらんうちに牛をひいて行こうとしたら、
 「ちいっと待っちくりょ。その牛の尻尾(しっぽ)の毛を三本ほどもろうちょく」
というて、牛の尻尾から引き抜いて、紙に包んで大事(だいじ)そうに懐(ふところ)にしまいこんだ。


牛買いは、
 「妙なことをする吉四六さんじゃ」
と思うたが、これ以上かかわると何されるかわからんので、牛をひいて、そそくさと立ち去って行ったと。

 二、三日たって叔父さんが旅から戻ってきた。
 向こうからやってくる叔父さんの姿をいち早くみつけた吉四六さん、大あわてで家の裏手(うらて)にまわり、牛の尻尾の毛を三本取り出すと、片手を石垣の穴に深く差し込んで、大声をあげた。


 「やあ大変だぁ、大変だぁ。みんな来ちくりい。叔父さんからあずかった黒牛が、今、こん石垣の穴に逃げ込んだんじゃ。おれが尻尾を握っちょるのじゃが、ああ、だんだん中に入っちまう。何と力の強いやつじゃろうか。みんな来ちくりぃ、早よう来ちくりぃ」
 叔父さんがびっくりして駆(か)けつけると、吉四六さん、いよいよ顔をしかめながらわめきたてた。
 
吉四六と牛の毛三本挿絵:福本隆男


 「こ、こ、こんちくしょう。まだ奥に入る気か。ああ、もう尻尾が、あっ、とうとう行っちもうたか」
と、さも残念(ざんねん)そうに、牛の尻尾の毛を三本、つまみ出して、
 「叔父さん、惜(お)しいことをした。もうちくっと早よう戻(もど)ってくるりゃよかったんじゃが、すまんけど、これだけがあの牛の形見(かたみ)じゃ。あきらめてくりい」
と、まことしやかな顔をして、三本の毛を渡した。
 吉四六さん、まんまと代金の十両をせしめたと。
 
 もしもし米ん団子 早う食わな冷ゆるど。

「吉四六と牛の毛三本」のみんなの声

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驚き

この、吉四六さんとやらは、ずいぶんど、あだまのええやづだなぁ✨私尊敬すっちゃー!(宮城民)( 10代 / 女性 )

驚き

今人は、あたまがよかんばい( 80代以上 / 男性 )

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