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『ツーツー、カラカラ』

― 新潟県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに古寺があったそうな。
 その寺では化物が出て、和尚(おしょう)さまが住んでもすぐに食われてしまうのだと。それで、誰(だれ)も和尚さまの来手が無くなったと。
 あるとき、強そうな侍(さむらい)がこの話を聞いて、
 「わしが退治(たいじ)してくれる」
というて、囲炉裏(いろり)にドンドコ火を焚(た)いて、夜っぴいて化物を待っていたと。

 
  そしたら、真夜中ごろに、
 ツー、ツー、カラカラ
 ツー、ツー、カラカラ
という音がして、誰かが戸の外へ来たようだ。間なしに、
 「お疲(つか)れなんしょ」
というて入って来たのを見たら、座頭(ざとう)だった。
 「おら、京へ上る座頭だが、今夜一晩(ひとばん)泊(と)めて呉(く)られ」
というので、侍は、
 「おう、泊まれや。化物が出るというこんだが、なに、わしが退治してやろうと待っていたところだ。恐(おそ)れをなしてか、一向に出て来る気配が無い。一緒(いっしょ)に泊(と)まろうぞ」
というた。
 すると座頭は、囲炉裏端(いろりばた)へ座って、背中の風呂敷(ふろしき)包みを下ろして、湯気がホヤホヤ立っているカイモチを出した。そして、うまそうに食べ始めた。ムシャムシャって。


 侍はちょうど腹(はら)が減(へ)っていたところなので、食いたそうに見ていたら、座頭が、
 「お侍さまも、ひとつ、どうですか」
というて、差し出したと。
 「ありがたく馳走(ちそう)になる」
と、ひとつもらって額(ひたい)のところへ戴(いただ)いたら、額と手がカイモチにひっついてしまった。もう一方の手で取り除(のぞ)こうとしたら、その手も額のカイモチにひっついてしまった。今度は足で取り除こうとしたら、両足とも額にひっついてしまったと。

 そしたら、座頭が、
 「今夜も魚(とと)が捕(と)れたがな、ヨインガサ、ヨインガサ」
というて、侍をどこかに引っ張(ぱ)って行った。
 また、寺には誰(だれ)も居(い)なくなったと。

 
 しばらくして、また、強そうな侍が来た。
 囲炉裏端で、化物が出て来るのを待っていたと。そしたら、真夜中ごろに、
 ツー、ツー、カラカラ
 ツー、ツー、カラカラ
と音がして、座頭が現(あらわ)れたと。
 「おら、京へ上る座頭だが、今夜一晩泊めて呉られ」
というた。侍はウムと頷(うなず)いた。
 すると座頭は、背中の風呂敷包みを下ろして、湯気がホヤホヤ立っているカイモチを出した。うまそうに食べながら、
 「ひとつ、どうですか」
というて、差し出した。侍は、目を細めて座頭を見ながら小さく顎(あご)を振った。座頭は、
 「そんなかたいことを言わんで」
というて、手に持ったカイモチを、ホレとばかりに差し出し、いきなり侍へ投げつけた。


 侍の頭に、ネバネバした網(あみ)のようなものが被(かぶ)さったと。
 「うぬ、やはり化物だったか」
というや、刀で斬(き)りつけた。
 座頭は、キーと喚(わめ)き、
 ツー、ツー、カラカラ
 ツー、ツー、カラカラ
と音を立てて、どこかへ逃げて行ったと。


 朝になって、様子を見に来た村衆(むらのし)と一緒に血の跡(あと)をたどって行ったら、本堂の仏様(ほとけさま)の台座の下に、でっかい穴(あな)があって、そこに大っきい蜘蛛(くも)が血だらけになって死んでいたと。 
 穴の中には、人の骨(ほね)がいっぱいあったと。
 
 いきが ぽんと さけた。

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新潟県に住むファン(50才女)です。 70代の母に聞かせてあげました。 次はどうなるか、ドキドキしながら聞いていました。 うちの母はとても喜んでくれました。 また聞かせてね、とのことなので、また聞かせてあげます。( 70代 / 女性 )

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