ネズミが最低
― 新潟県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
とんと昔があったけど。
ある日、ネズミとイタチが道で出会(でお)うたと。ネズミが、
「イタチどん、イタチどん、おら粟(あわ)の穂(ほ)三穂(さんぼ)持っている。一緒(いっしょ)に種蒔(たねま)きしねか」
と言うたら、イタチが、
「そりゃ、いいども。育(おが)ったらどうする」
と聞いたと。
「ふたりで半分(はんぶん)コだ」
「なら、する」
と話がまとまり、河原(かわら)に寄(よ)り合い畑(ばた)を耕(たがや)して粟の穂三穂の種を蒔いたと。
イタチは蒔いた種が鳥(とり)に啄(ついば)まれないように見張(みは)りをした。
芽(め)が出たら、日照(ひで)りと雨降(あめふ)りが気になり、茎(くき)が伸(の)びると草むしりや虫取りもした。
ネズミにも面倒見(めんどうみ)を頼(たの)んだら、いつも途中(とちゅう)で、
「頭痛(いたく)くなった」「腹ぁ病(や)んできた」
と言うて、帰ってしまう。
夏の終(お)わり頃(ころ)に穂が出たら、穂は日毎(ひごと)に太(ふと)く長くなったと。
イタチが、
「これなら、粟がたくさん獲(と)れそうだ」
と言うたら、ネズミは、
「おれは、この形(かたち)嫌(きら)いだな。でっこいネコジャラシみたいで」
と言うた。
秋も中が過(す)ぎた頃、穂は黄色くなり、実(み)の重(おも)さで垂(た)れ下がった。イタチは、
「明日か明後日(あさって)が刈(かり)り獲る頃合いだ。いやぁ楽しみだなぁ」
と言うて、待ちきれん風だ。
次の日、イタチが畑に行ったら、たわわに稔(みの)っていた黄色い粟の穂が全部、だれかに刈り盗(と)られてしまっていた。畑にはネズミの足跡(あしあと)がたくさん残(のこ)ってあった。
魂消(たまげ)たイタチはネズミの所へ行った。
「ネズミどん、ネズミどん。おらたちの粟の穂、全部だれかが刈ってしもうたど」
「そら、おおごとだ、おらが昨日(きのう)の夜中(よなか)に見廻(みまわ)ったときには、何ともなかったぞ。よし、おらも見に行く」
ふたりして粟畑へ行ったと。
ほしたらそこへ、カラスがガァガァ飛んで来た。イタチが、
「カラスどん、カラスどん。この畑に粟コ三穂蒔いて稔ったが、お前(め)さま刈らねか」
と訊(き)いたら、カラスは、
「他人(ひと)のもんを何だとて。ガァガァ」
と怒(おこ)って、どこかへ飛んで行ったと。
次にトンビがピーヤラ、ピーヤラと飛んで来た。
「トンビどん、トンビどん。この畑に粟コ三穂蒔いて稔ったが、お前さま刈らねか」
と訊いたら、トンビは、
「他人(ひと)のもんを何だとて。ピーンヤラ、ピーンヤラ」
と怒って、どこかへ飛んで行ったと。
次にハトがポーポーと飛んで来た。
「ハトどん、ハトどん。この畑に粟コ三穂蒔いて稔ったが、お前さま刈らねか」
と訊いたら、ハトは、
「他人(ひと)のもんを何だとて。ポッ、ポッ」
と怒って、どこかへ飛んで行ったと。
次にスズメがチュン、チュン飛んで来た。
「スズメどん、スズメどん。この畑に粟コ三穂蒔いて稔ったが、お前さま刈らねか」
と訊いたら、スズメは、
「他人(ひと)のもんを何だとて。チュン、チュン」
と怒って、どこかへ飛んで行ったと。
ほしたらそこへ、ネズミの子っコがチョロチョロと出て来て、
「とと、とと、夕(ゆん)べのような粟餅(あわもち)、また食いたいチュー」
と言うた。
これを聞いたイタチは、
「お前が刈ったんかぁ、このぉ、このぉ」
と怒って、ネズミに噛(か)みつき、呑(のみ)み下したと。
いきがポーンとさけた ドッピン。
ネズミが最低
昔、あるところに、人の住まない荒(あ)れた屋敷(やしき)があったそうな。何でも昔は、分限者(ぶげんしゃ)が住んでいたそうだが、どうしたわけか、一家みな次々に死に絶(た)えてしもうて、そののちは、だあれも住む人もなく、屋敷と仏壇(ぶつだん)だけが荒れるがままの恐(おそ)ろしげになっておった。
むかし、むかし、ある山里に貧乏なお寺があって、和尚(おしょう)さんが一人住んであった。 その寺へ、毎晩のように狸(たぬき)が遊びに来て、すっかり和尚さんになついていたと。
「刈り盗ったのは誰」のみんなの声
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