― 新潟県佐渡市 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに爺(じ)さと三人の兄弟(きょうだい)が暮(く)らしておったと。
ある日、爺さが兄弟を集めて、
「お前(め)だち、どうやらわしも年をとった。今日はひとつ、いちばん大きな事を言うた者(もん)にかまどをゆずりたいが、どうだ」
と、言うた。
すると末っ子の弟が、
「おらぁ、千石船(せんごくぶね)にいっぱいの米を、二日にも食うような身代(しんだい)になってみてえ」
と言うた。
爺さは、
「うん、なかなか大きい大きい」
と、にこにこしながらうなずいたと。
すると、まん中の弟が負(ま)けられんとばかりに、
「おいらぁ、近江(おうみ)の湖(うみ)を庭の池とするような身代になってみてえ」
と言うた。爺さは、
「うんうん。それもなかなか大きい大きい」
と、あごをなでなで、うなづいたと。
さて、最後に残(のこ)った兄がどんな大きなことを言うかと、爺さも二人の弟も兄の方を向(む)いてうながしたが、兄は腕組(うでぐ)みをして、目をつむったまま黙(だま)っている。
しびれを切らした末っ子の弟が、
「兄者(あにじゃ)、何か言え、早よ言え」
とせかしたら、まん中の弟が、
「兄者は、おいらが言うたことより大きいことが浮(う)かばなくて黙っているんか」
と、勝ちほこったように言うた。爺さも、
「これ、兄や、お前え、いったい何が欲(ほ)しい」
と、さいそくしたら、やっと兄は目をあけ、爺さと弟たちを順番(じゅんばん)に見やったあげくに、
「おらぁ、赤牛(あかべこ)のキンタマを三つ欲しい」
と言うた。
爺さも、二人の弟もあっけにとられて、目をぱちくりしたと。
ややあって、爺さが、
「なに、赤牛のキンタマ・・・・・・だと。お前え、それをなんにする」
と聞くと兄は、
「おらぁ、そのキンタマを、爺さが口へ一つ、弟どもの口へ一つずつ押(お)し込(こ)んでやりたい。そんな及(およ)びもつかんことを言うたって、何になる。言うても、言わいでも、おれが惣領(そうりょう)に決(き)まっとる」
と、こう言うたと。
おしまい。
民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。
「感想を投稿する!」ボタンをクリックして
さっそく投稿してみましょう!
昔、ある渡場(わたしば)に乗り合いの船(ふね)があったと。お客を乗せて海を渡っていたら、急に船が動かなくなったと。いっくらこいでも、船は前にも進まない、後にも戻(もど)らない
「惣領息子」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜