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こめくら こめくら
『米倉 小盲』

― 兵庫県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんが暮らしていたと。
 ある春雨(はるさめ)の降(ふ)る日、爺さんが簑笠(みのかさ)つけて畑おこししていたら、誰(だれ)やら上の方から呼ぶ声がした。
 「おい、これ爺、これ爺」
 爺さん、きょろきょろ周囲(あたり)を見たら、畑の脇(わき)の木の枝に天狗(てんぐ)さんが止まっていた。
 「あやぁ、天狗様でねえか。はえはえ、何のご用ですかい」
 「爺が着ている簑(みの)と笠(かさ)な、わしにくれんか」
 「へえっ、この簑と笠でござえますか」
 「そうじゃ」
 「へえ」

 
 「ただとはいわん。このデンデン太鼓(だいこ)を爺にやる」
 「へえっ、デンデン太鼓でござえますか」
 「そうじゃ」
 「オモチャもらうてもなぁ」
 「何をいうか。こりゃあただのデンデン太鼓ではないぞ。欲(ほ)しい物言うてポポンと鳴(な)らせば、それが出る不思議(ふしぎ)な宝太鼓(たからだいこ)じゃ」
 「へえっ、この世にそんないいもんがあるんかい」
 「そうじゃ、試してみよか。爺は今、何が欲しい」
 「そうじゃなあ、畑仕事をすると腹(はら)が減(へ)ってかなわん。早よ家さ帰って夕餉(ゆうげ)の雑炊(ぞうすい)を食べたいと思うとったとこじゃった」
 「よし、それを出してやる。炊(た)きたての雑炊出よ」 

天狗さんがそういうてデンデン太鼓をポポンとならしたら、湯気(ゆげ)の立つ雑炊が丼(どんぶり)で出てきた。爺さんが食うてみたら、味もなかなかいい。
 爺さんは簑と笠を天狗様にあげて、不思議なデンデン太鼓をもろうた。 

 
 「欲しい物が三つまで出る。残りは二つじゃぞ。よう考えて出せ。」
 天狗さん、こう言い残すと、蓑と笠身につけて、どこかへ行ったと。

 爺さんが家へ帰ると、婆さんが
 「あれまあ、そんなに濡(ぬ)れてぇ。簑笠つけて行ったんでなかったぁ。早よう着替(きが)えにゃ風邪(かぜ)ひく、雑炊出来とるで温(ぬく)まれ」
というた。
 「雑炊、食うてきた」
 「あれ、どこでだえ」
 「実は、畑で天狗様に出逢(でお)うてな、簑笠とこのデンデン太鼓と取り替え(とりかえ)たった。この太鼓は宝の太鼓で、何でもほしいもの出るというので、雑炊出してもろうて食べてきた。あと二つ、欲しい物が出る。婆さん、なに出そうなぁ」
 「あれぇ、そんなにいい物もろうたかい。そら良かったなぁ爺さん。そんなら、銭(ぜに)ぃ百両、言うてもらおうか」
 「そんな欲張(よくば)ったこと言うな。十両でええ」

 爺さん、婆さんのうらめしそうな顔を見ながら、
 「銭ぃ十両、出て来い」
というて、デンデン太鼓をポポンと鳴らした。


 眼(め)の前に、ピカピカ光る小判が十枚、ゾロッ、チャリンと出て来た。
 爺さんが喜(よろこ)んでいると、婆さんは、
 「なんと欲のないことだな。今度ぁわしが米を出して貰(もら)う。」
というた。
 「米ぇようけ貰(もろ)うても、置く所がないぞ」
 「判っとる、判っとる」
 婆さん、デンデン太鼓を持つと、
 「こめ、くら、米、倉、米倉、こめくら、こめくら…ようけい出ぇ」
というて、ポポポン、ポポポンと鳴らした。 
 米や倉はひとつも出ないで、こんまい盲(めくら)の小僧(こぞう)が次から次ぃ、ようけい出て来たと。

 いちご、にご、さんがらがいた。

「米倉 小盲」のみんなの声

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