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かみそりぎつね
『髪剃り狐』

― 新潟県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところの原っぱに、性悪(しょうわる)で化(ば)け上手(じょうず)の狐(きつね)がおったと。
 通る人を坊主頭(ぼうずあたま)にするので、村の人たちはおっかながって、誰もその原っぱを通らなくなった。不便(ふべん)でしょうがないのだと。

 ある日、元気な若者(わかもの)が、
 「そんつら化け狐、なに怖(こわ)いことがあろ。俺(おれ)、行って退治(たいじ)してくる」
と言うて、勇(いさ)んで原っぱへ行った。
 藪陰(やぶかげ)に隠(かく)れて、もう出るか、もう出るかと待ち構(かま)えていると、山裾(やますそ)の方から、一匹の狐がやってきた。草深い原っぱで、ピョンピョン跳(は)ねて何かを追いかけているふうだ。

 
 やがて、ひょこっと後足(うしろあし)で立ったのを見れば、口に一羽の雉子(きじ)を喰(く)わえておった。
 キョロキョロ辺りを伺(うかが)ってから草を分け分け道端(みちばた)まで来ると、くるんとでんぐりをうって、いとしげな娘(むすめ)に化けた。そうして雉子を背負(せお)うと、それが赤ん坊になった。
 「さあ、婆(ば)さのところへ行って、おいしいもの食べようなあ」
と言うて、背中の赤ん坊をあやしながら、スタスタ歩いていくんだと。若者は、
 「こりゃあ、いいところを見た」
と言うて、こっそり後をつけて行くと、娘は隣村(となりむら)との辻道(つじみち)にある茶屋(ちゃや)へ入って行った。
 「はて、こんなところに、いつ茶屋が出来ただ」
と首を傾(かし)げていたら、茶屋では、
 「いま帰って来たで、婆さ」
 「ああ、帰って来たか。さあさあ上がれ」
と言い合って、婆さがにこにこして娘を座敷(ざしき)に上げとる。

 
 若者は、店の入り口で婆さが出て来るのを待っておった。
 婆さが娘に茶と菓子(かし)を運んで、座敷から店に下りてきたところを小声(こごえ)で、
 「婆さ、婆さ」
と呼び寄(よ)せた。
 「婆さ、今来た女は、ありゃあお前(め)とこの娘でねえ。狐だ」
 「何を言うとる。お前、狐に化かされとるんでねえか」
 「狐に化かされとるのは、婆さ、お前えだ」
 「そんげなこと、何あろう」
 婆さは、いっこうにとりあわない。
 「俺、さっき、ちゃんと化けるところを見てきたすけ」
と言うても、婆さんは本当にせん。
 「そうせば、俺が尻尾(しっぽ)を出させたら信用(しんよう)するか」
 「てんぽ、こくでねえ」
 「てんぽなこと、あるもんか。本当のことだ」


 婆さは、若者の眼(まなぐ)をじいっと見つめ、やがて、
 「尻尾、出せるか」
 「出る。必ず出す」
 「せば、やってみれ」
と言うた。
 若者は、娘を木に縛(しば)りつけ、藁(わら)を燃(も)やして娘をいぶした。ところが、いくらいぶしてもなかなか尻尾を出さない。それどころか、娘は息(いき)も出来なくて、とうとう、ぐったりした。
 
 さあ、婆さは怒(おこ)った。
 「お前、娘をいぶり殺(ころ)したがどうしてくれる」
 「たしかに狐と思ったのだが……」
 「たった一人の娘らにい。生き還(かえ)らせてくれろ。さあ」
 若者は困(こま)って困って、
 「どうにも、こうにも、いや、とりかえしのつかんことをした」
と、ぶつぶつ、もごもご詫(わ)びていたら、お坊さんが通りかかった。


 「これ、お前えさん、何しられたや」
 「はあ、実は……」
 これこれこうと、若者が一部始終(いちぶしじゅう)を話すと、
 「こうなったらお前え、坊主になって弔(とむら)うしかなかろう」
と言う。
 若者は、その場でお坊さんに頭を剃(そ)ってもらった。そしたら、その剃りようが乱暴(らんぼう)で、乱暴で、あんまり痛(いた)くてたまらんので、
 「いて、いて、いててて」
と言いながら頭を振(ふ)った……ら、そこには、はあ、茶屋もなければ、婆さも、お坊さんも居なくって、ただの原っぱだったと。
 若者は、狐にだまされたうえに、頭の毛までむしられてしまったと。
 端(はな)っから終(しま)いまで狐にいいようにいじられて、情(なさ)けないやら、頭が痛いやら、若者はしょげかえって村に帰って行ったそうな。

  いちごさっけ 鍋の下ガリガリ。

「髪剃り狐」のみんなの声

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