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おどるがいこつ
『踊る骸骨』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あったてんがな。
 ある山方(やまかた)の村に、六ベェ(ろくべぇ)と七ベェ(しちべぇ)いう仲の好(よ)い二人の男があった。
 二人は村に居ても、いい仕事もないし、遠い里方(さとかた)へ旅かせぎに出かけたと。

 二人は三年働いて、村へ帰ることになった。
 六ベェはまじめに、よく働いて、金をいっぱい貯(た)めたが、七ベェは、怠(なま)けて遊んでばかりいたもので、金も貯まらず、帰りの土産(みやげ)も買えないようなありさまだったと。

 
 六ベェが、
 「七ベェ、案じることはねぇ。お前の土産は俺(お)らが買(こ)うてやる」
と言うて、土産を買うてやったと。
 二人は連れ立って、山方の村へ帰って行った。村の近くに来て、山の谷にかかっている一本橋(いっぽんばし)のところへ差しかかると、七ベェが、
 「六ベェ、お前さきにこの橋渡れや。お前の荷物(にもつ)も金も、俺らが持ってあとから渡ってやるから」
と、言うた。正直な六ベェが、
 「七ベェ、すまねぇ。俺ら、どうもこの橋は苦手でなぁ。目がくらむし、足もすくんで」
 「なあに、いいってことよ。どれ荷物、金も……よしあずかった」
 六ベェは身ひとつでその橋を渡りはじめた。そろり、そろりと、橋の中程(なかほど)まで進んだら、七ベェが後ろから背中をドンと突(つ)いた。
 六ベェは、深い谷底(たにそこ)へ落ちて死んでしもうた。

 
 七ベェは、なにくわぬ顔をして村に帰り、
 「六ベェは、一本橋から落ちて死んでしもうた」
と村長(むらおさ)に報告したと。
 七ベェは村に一年いるうちに、六ベェから奪(うば)った金を使い果たし、また里方へ働きに出かけることにしたと。山を越(こ)えて、あの一本橋のところへ来たら、後ろから、ガッタ、ガッタ、ガッタ、ガッタと音がついて来るふうだ。
 「はて、なんだいや」
と言うて、ヒョイと後ろを振り向いたら、真っ白い骸骨(がいこつ)が、ガッタ、ガッタと歩いてきて、
 「おい七ベェ、七ベェ」
と呼んだ。
 「はて、気味悪(きみわる)いな。骸骨が俺らの名をどうして知ってるや」
 「俺らは六ベェだ。お前はまた、稼ぎに行くか。俺も一緒に連れてってくれ。そうしたら、お前にいっぱい金もうけさせてやるが、どうだ」
 「どうやってだ」


 「俺らがこの姿で踊(おど)るから、それを人に観せて金をとれ。それ、俺らの骨をたたんで、持って行けや」
 「そりゃ、いい案梅(あんばい)だ」
 七ベェは、六ベェの骨をたたんで、風呂敷(ふろしき)に包(つつ)んで背負(せお)い、里方に行った。
 「世にも珍(めず)しい骸骨の踊りィ」
と、口上(こうじょう)をいうて見物人(けんぶつにん)を集め、風呂敷を広げる。するとバラバラの骨が、勝手に組み合わさって、骸骨となり、ガッタ、ガッタ、ガッタ、ガッタと、手振(てふ)り足振(あしふ)りして踊った。
 どこへ行っても珍しがられ、面白(おもしろ)いように金がもうかったと。
 七ベェは、自分の村の人たちにも観せたくなった。骸骨の六ベェに相談(そうだん)したら、
 「俺らも村へ帰りたかったところだ」
と言う。
 七ベェ、骸骨をたたんで風呂敷に包み、大いばりで村に帰ったと。


 「骸骨の踊りィ」
と、呼び口上を言うて歩いたら、村の衆(しゅう)がいっぱい集まった。村長も来たと。七ベェが、
 「さあ、懐(なつ)かしい故郷(ふるさと)の皆々様(みなみなさま)にごひろういたします。この骸骨の踊りは種も仕掛(しか)けもありません。何を隠(かく)そう、この骸骨は、私の最も親しかった者のなれの果ての姿でございます。生前(せいぜん)よくめんどうを見てやった私への、まさに骨がらみの報恩(ほうおん)踊り。とくと、ご覧(ろう)じろ」
と言うて、風呂敷を広げると、骨が勝手に組み立て上がって、人形(ひとがた)の骸骨になった。そして、ガッタ、ガッタ、ガッタ、ガッタと手振り足振りで踊りだした。
 村の衆は、七ベェの、前口上にも、骸骨踊りにも感心して、盛大(せいだい)な拍手(はくしゅ)をした。七ベェは鼻、高々だ。


 そしたら、骸骨が手振りで皆を静めて、物言うた。
 「俺らは、七ベェに殺された六ベェだ。七ベェに一本橋から谷底へ突き落されてしもうた。故郷を目の先にして死んだのは、どれ程、口惜(くちお)しかったか。七ベェは怠け者で、土産を買う金も無く、俺らが買うてやったのに、俺らを殺して金と荷物を盗(と)ってしもうた」
と言うて、事の真実(しんじつ)を村の衆に聴(き)かせてやったと。

 村の衆は、皆して七ベェを袋叩(ふくろだた)きにした。
 青息吐息(あおいきといき)になった七ベェを、役人に引き渡したと。
 
 いきがポーンとさけた。

「踊る骸骨」のみんなの声

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怖い

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