最初に女房になった蛙を助けたまではよかったけど、蛙たちの法事の最中に石を投げたり、女房が帰ってきたら「騙した」と罵ったり、この父の行動に共感できなかった。正体が蛙だと知ってショックだったのかもしれないけど。( 40代 / 女性 )
                                ― 新潟県 ―
                                
                                                                                                                                                        語り 井上 瑤
                                                                                                                                                                                                                                            再話 今村 泰子
                                                                                                                                                                                                                                                                    
                            
                             昔、あったてんがな。
 あるところに父(とっつあ)と嬶(かっか)があった。
 あるとき父が沼のほとりを歩いていたら、道端(みちばた)で一匹の蛙(かえる)が蛇(へび)に、今にも呑(の)まれようとしていた。父は木の枝で蛇を払い飛ばして、蛙を助けたと。蛙はギャクと鳴いて草むらに姿を消したと。 
 それからしばらくして、嬶が子供一人残して死んだと。
 そうしたら、子供が泣いてばかりで困っていたと。
                            
                
 
 ある晩、若い女が訪ねてきて、
 「今晩ひと晩泊めてくれ」
と言うた。父は
 「おら家(ち)は乳呑子(ちのみご)一人置いて嬶に死なれてしもうた。それで乳(ちち)が無いんだが、毎日泣いて泣いて、おらもほとほと困ってしもた。お前(め)乳が出るかや、乳があったら泊まってくれ」
というた。
 「おら乳が出るから、飲ませてやれる」
 「それだら、ぜひ泊まってくれ」
 その女は、泊まって子供に乳飲ませてくれたので、子供はすやすや眠った。
        
                            
                            
 父は大層(たいそう)喜んだ。次の日になっても、また次の日になっても、その女は子供に乳を飲ませてくれて、一向(いっこう)に帰らんのだと。何日目かに、女は、
 「おらこと、ここん家(ち)の嬶にしてくれ」
というた。父は、こんな嬉(うれ)しい申し入れはないとばかりに、
 「そうか、お前(め)がその気なら、ぜひ嬶になってくれ」
というた。
 その女は、そこん家(ち)の嬶になったと。
 ある日、嬶が、
 「とっつぁ、とっつぁ、里で親の法事(ほうじ)があるので、ちょっくら、行かせておくれ」
というた。
 「そうか、ぜひ行ってくるがいい。親の法事なら、ローソクも線香も米もいるだろう。必要なものをみんな持って行けよ。」 
                            
                
 
 「なぁに、そんなものいらん。この身だけで行ければそれでいいんだ」
 嬶が出かけて行ったら、父は嬶の里ってどこだべ、思うた。今まで、聞いたこと無かったと。
 父、こっそり嬶の後をついて行ったと。
 そしたら、里へ通じる道ではなくて、沼の方へ行くのだと。不思議に思うて、尚(なお)もついて行ったら、沼に着いた。嬶、ジャボンと飛び込んだと。
 父、あっけにとられて、物陰(ものかげ)に隠(かく)れて見ていると、蛙が、あっちからも、こっちからも集まってきた。
 そして、和尚蛙(おしょうがえる)と小僧蛙(こぞうがえる)を真ん中にして、そのまわりをたくさんの蛙がかこんで、ギャク、ギャク、ギャク、ギャクと、大法要が始まったと。父、
 「さては、嬶は蛙であったか」
と気がついて、くやしくなった。
 「こうしてくれる」
とて、石を拾うて投げ込んだと。 
        
                            
                            
 
 父、家に帰って、しらんぷりしていたら、やがて嬶が帰って来た。
 「今帰ったス。今日は法事に帰らせてもろうて、ありがとうござんした」
 「里の法事は、どんなだったや」
 「はい、それが、どうもこうもない。法事のさいちゅうに、でっこい石が飛んで来て、和尚さまに当たって死なれてしもうた。法事はさんざんなことになりもした」
 父、これではっきり判(わか)ったと。
 「こら、蛙め、何でおらと子供をだまくらかした」
 「あやぁ、お前さま、おらが蛙だと知ってしもうたかや。あやぁ、実は、おらは、お前さまに助けられた蛙だ。お前さまが乳飲み児をかかえて困っていたので、今までご恩報(おんほう)じをさせてもろうたった。素性(すじょう)が判ってしまったからには仕方がない。これでいとまごいをしましょう」
というて、蛙の嬶はどこかへいってしもうたと。
 いきがポーンとさけた。 
                            
最初に女房になった蛙を助けたまではよかったけど、蛙たちの法事の最中に石を投げたり、女房が帰ってきたら「騙した」と罵ったり、この父の行動に共感できなかった。正体が蛙だと知ってショックだったのかもしれないけど。( 40代 / 女性 )
蛙でも別によくないか?( 10歳未満 )
感慨深いお話しで、涙がにじむ自分に驚いています。( 60代 / 男性 )
昔、あるどごに父(おど)と母(おが)と娘と暮(く)らしてあったと。父と母ど松前(まつまえ)さ、働ぎに行ったど。娘、一人で家にいだど。娘ァ父と母と帰るまでに、麻糸(からむし)の糸玉ばこさいでおぐべど思って、夜おそくまでせっせど働いでいだど。
「蛙女房」のみんなの声
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