お坊さんが雪を降らせて、それが弘法大師さんだったのが驚きました。 ( 10歳未満 / 男性 )
― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
とんと昔があったげど。
ある冬の夕方、雪のふりつもった里の村に旅の坊さまがやってきた。
腹(はら)をすかせ、とぼらとぼら歩きながら、一軒(いっけん)一軒訪(たず)ねては、
「どうか一晩(ひとばん)だけ泊めて下され」
と、たのんで廻(まわ)ったと。が、どこの家でもみすぼらしい旅の坊さまの姿を見ると、
「よそに行ってくろ」
というて、泊めてくれなんだ。
しかたなしに、寒い雪の道をふるえながら歩いていると、村はずれに小(ち)っこい家があった。
坊さまは、またことわられるかもしれんと思いながら、ホトホトと板戸(いたど)をたたくと、中から婆(ばあ)さまが出てきた。
「宿がなくて困っています。どうか一晩だけ泊めて下され。」
「とめてあげたいども、おらとこは貧乏(びんぼう)でお坊さまに食うてもらうようなもんもないすけ、どうかよその家に行ってくれんかのう。」
「村中の家にたのんでみたが、どこの家でもことわられてしもうた。何もいらんから泊めて下されや。」
「そうかそうか、それは難儀(なんぎ)じゃろう。こんな家でよかったら泊まってくろ」
婆さまはそう言うと坊さまを家に入れ囲炉裏(いろり)に火を焚(た)いて部屋をあっためたんだと。
旅をしてきた坊さまだから、さぞかし腹をすかせているだろうと思ったが、食べさせられるような物は何にも無い。
婆さまは、夜おそうなってから家をぬけ出した。雪の上をあっちへよろよろ、こっちへよろよろしながら、ようやく金持ちの家の大根置き場へ行くと、大根を一本、こそっとぬすんできた。
雪の上には、婆さまの足あとがくっきりとついていたそうな。
家に戻った婆さまは、その大根を囲炉裏(いろり)の灰の中にうずめて、しばらくしてとり出すと、
「さあさ、大根焼きでも食うてくろ。からだがあったまりますで」
と、坊さまに差し出した。
「おー、これは寒い晩には何よりのごちそうじゃ」
坊さまはうまそうに大根焼きを食うたと。
その夜のこと、さらさらさらさら雪が降(ふ)りつもって、婆さまの足あとをみんな消してしもうた。婆さまの気持ちをうれしく思うた坊さまが、雪を降らせたんだと。
この坊さまは弘法大師(こうぼうだいし)さんだったと。
この日が旧暦(きゅうれき)の十一月二十三日だったもので、それで今でも旧暦十一月二十三日を大師講(たいしこう)というて必ず大根焼きを食うようになり、この日には必ずちらっとでも雪がふるので、その雪を「あとかくしの雪」というようになったんだと。
いちがポーンとさけ申(もう)した。
お坊さんが雪を降らせて、それが弘法大師さんだったのが驚きました。 ( 10歳未満 / 男性 )
完璧な人はいない。人は誰も過ちを犯す。誰かを助けるためには小さな悪は神様は 許してくれる。そんな気持ちと一度間違いを犯したとしても立ち直る。そんな気持ちにさせてくれる。お話でした。( 50代 / 男性 )
むかしむかし、ある竹藪(たけやぶ)の中に、大きな虎が一匹住んでおったと。虎は日ごろから、ひととび千里(せんり)じゃ、と走ることの早いのを自慢(じまん)にして、いばっておったと。
「あとかくしの雪」のみんなの声
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