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かぜのかみとこども
『風の神と子供』

― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 とんと昔あったと。
 ある秋の日、村の鎮守様(ちんじゅさま)のところで子供たちが遊んでいたと。そこへ、村ではついぞ見かけたことのない男がふらりとやって来て声をかけたと。
 「お前たち、ここで遊んでいても何も食うものがないねかや。栗や柿や梨がたくさんあるところへ遊びに行きたくねえか。あきるほどあるぞ」
 「ほんとかい、うそこくでねえど」
 「ほんとだとも」
 「俺らそんげなところなら行きてぇ、なあ」
 「うん、俺らも行きてぇ」
 「俺らも」「あたいも」
 「よし、そんじゃ俺が連れてってやる。さあ、お前たち、これにまたがってしっかりつかまってろよ」

 と、その男は尻のところから尻尾(しっぽ)のような長いものをずるっと出して、ふり向いて言うのだと。


 「みんな乗ったか」
 「ああ、みんな乗った」
 みんなが答えると、ゴ―ッとひと風吹かせて、空に舞い上ったと。
 空をずらずら飛んでしばらくすると、栗やら柿やら梨やらがどっさり実(みの)っている所へ下ろしてくれた。そして、またひと風吹かせて栗やら柿やらをバタバタ落としてくれるんだと。みんなは喜んだのなんの、たらふく食っては遊び、また食っては遊びしていたと。

 やがてあたりが暗くなりかけると、男は、
 「うっかりしているうちに、へえ、夕方になってしもた。俺はこれから大急ぎでほかのところへ行かなきゃなんない。お前たちだけで家へ帰れや」
と、言いおいて、早い風に乗ってどこかへ行ってしまった。


 見も知らぬ山で子供たちはエンエン泣いとった。あたりはもうまっ暗。すると遠くに明かりがひとつポ―ッとともった。
 「あっ、あそこに家がある」
 みんなで、からだをくっけ合ってその家へ行くと、中に、こえこえ肥(こ)えた大っきな婆さんがおらしたと。  「お前ら、どっからきたや」
 「俺らたち、よそのおじさんに長いもんに乗せられて風に乗ってここに来たんだ。栗やら柿やら梨やらをうんとごっつおになったけど、そのおじさんがどっかへ行っちまって、俺たち家に帰ることできん」
 「そうか、その男は、きっとうちのよくなしおじの南風(みなみかぜ)だよ。ほんとに気まぐれなんだから。でもね案じることないよ、じきにうちの北風って子にお前らを送らせるからね。俺らは風の神の親さ」

 そう言って子供たちを家の中へ入れ、白いまんまと熱い豆腐汁(とうふじる)をごっつぉしてくれたと。


 みんながぬくもったところで風の神の親は
 「これ、あんにゃ、起きれ、起きれ」
と寝ていた北風を起こしてくれた。
 みんなは、北風の尻尾に乗せてもろうて、やっぱし風を吹かせて村に帰って来たと。
 村では夜になってもこどもたちが帰って来ないので、大騒ぎしてそこいら中を捜している所だったと。
そこへ北風が吹いて空から子供たちがかえったので、村中大喜びしたと。

 いちごさけた どっぴん なべのしたがらがら。

「風の神と子供」のみんなの声

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