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おおどしのひ
『大歳の火』

― 長崎県島原半島 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、ある分限者(ぶげんしゃ)の家で沢山の女中を使っていた。その中に主人のお気に入りの娘(むすめ)が一人いたと。明るくて、まめまめ、よう働く娘(こ)であったと。

 ある大歳(おおどし)の晩、主人は、その娘に、
 「年の晩(ばん)には火を消さない習慣(ならわし)だ。今夜は決して火を絶(た)やさぬように」
と大役を言いつけた。
 娘は、主人の言いつけを守って、その晩は寝(ね)ずの番をしていたと。
 ところが、その娘が少しの間火の端(はた)を離(はな)れたすきに、他の女中が妬(ねた)んで、水をかけて火を消してしまったと。


 その娘が用を済(す)ませて戻(もど)ってみると、火がすっかり消えている。びっくりして、おろおろするばかりだ。その内に気をとりなおし、どうにかして火を起こしたい、と思って、戸口に出て火を持って通る人はないかと見守っていたと。

 しばらくすると、遠くの方から灯(あかり)が見えた。やれよかったと喜んで待っていたら、だんだん近づいて来たと。葬式(そうしき)の人達だったと。
 死人は怖(こわ)いし、えんぎでもないと思ったが背に腹はかえられない。おそるおそる近づいて、訳(わけ)を話し、火種を分けて呉(く)れと頼(たの)んだ。
 そしたら、
 「この棺桶(かんおけ)をあずかってくれたら火種をやってもよい」
というた。


 棺桶の番をするなんて怖ろしすぎる。それに年の晩に棺桶のなんぞあずかって、主人に知れたらどんなおしかりを受けるかわからない。それかというて、火種を絶やしたことが知れたらなおしかられる。

 とうとう、翌(よく)朝、まだ皆(みんな)が起き出す前に引き取りに来て下さいとお願いをして、棺桶をあずかることにしたと。そおっと離(はな)れの小屋に運び入れてもらった。
 火種を分けてもらった娘は、やっとのことで火を起こしたと。
 火が起きたら起きたで、今度は小屋の中に安置してある棺桶のことが気になって気になってしょうがない。
 今引き取りに来るか、もう来るか、と戸口と火の間を行ったり来たりしていたと。
 そのうち、一番鶏(どり)が啼(な)き、二番鶏が啼き、三番鶏が啼いて、夜が明けた。葬式の人はとうとう棺桶を引き取りに来なかった。


 正月元旦の朝、使用人達が起き、主人が起きた。娘は覚悟(かくご)をきめて、昨夜、火が消え、棺桶をあずかったことを主人に話した。
 主人とともに、離れの小屋に行ったら、棺桶は昨晩のままのところにあった。
 「蓋(ふた)を開けて、誰が死んだのか確(たし)かめんことには、呼(よ)びに行きようがないな」
と主人に言われて、娘は目を固くつぶり、顔をそむけて、棺桶の蓋を開けたと。 
 おそるおそる目を開けた。そしたらなんと、棺桶の中にあったのは死人ではなく、黄金(きん)のかたまりが一杯入っていた。それが朝日にかがやいて、キラキラ光ったと。
 この娘への神様からの授(さず)けものだったと。
 
 こりぎりぞ。

「大歳の火」のみんなの声

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感動

子供の頃 大好きだったお話です。祖母が度々語ってくれました。現代の子どもさんには単純なお話かもしれませんが、ぜひ聞いてみてほしいです。 いいお話をありがとうございます。( 50代 / 女性 )

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