聖母マリア伝説の変奏ですね。ルソンというからフィリピン経由で伝わってきたんでしょうか。途中にはギリシャ神話の影響を感じる部分もあったり、このお話の成立過程を想像すると楽しいです。( 男性 )
― 長崎県長崎市 ―
語り 井上 瑤
再話 末松 祐一
むかし、むかし、ルソンちゅう国の貧乏な大工の子で、丸屋(まるや)ちゅう娘のおったゲナたい。
そん丸屋は、こまか時からほんとに利口か娘でナン。
「どうしたら、人々の魂(たましい)ば救うこつの出来ゅうか」
と、いつも考えとったちゅうバイ。
あるとき、天の神さまのお告げば聞いてからちゅうもんな、
「わたしゃぁ、嫁(よめ)に行かず、一生おぼこで通そう」
ちゅうて、願(がん)ば立てたとゲナ。
ところが、ある日のこと、丸屋の美しか姿が、ルソンの王様の目にとまってのう、
「ぜひとも、俺が妃(きさき)になってくれんか」
と所望(しょもう)されたとバイ。ばってん、
「わたしゃ大願(たいがん)ば立てた身じゃけん、せっかくですが、嫁にゃ行かれまっせん」
ちゅうて、きっぱり断ったうえに、不思議(ふしぎ)ば見せたげなタイ。
丸屋が天に向こうて静かに祈(いの)ると、不思議じゃなかナ。もう暑か六月というのに、天から雪のチラチラ降り出してのう、見とる間に五尺(ごしゃく)も積もってしもうたちゅうバイ。
これには王様はじめ、家来(けらい)でん、誰でん、そばにおった人たちゃァみんな肝(きも)ばつぶしてのう、気の抜けたごとなってしもうた。
そこんところに、天から花車(だし)が降りて来てのう、丸屋は天に昇ってしもうたちゅうバイ。
やっと雪が降りやんで、王様の正気づかれたときにゃ、丸屋の姿はもうどこにも見当たらんじゃったなゲナ。
そんことがあってからちゅうもんな、王様は、丸屋のことばっかり思いつづけてのう、あげくの果て、とうとう焦がれ死んでしまわれたそうな。
天に昇った丸屋は、天帝(てんてい)様から「雪のさんた丸屋」ちゅう名ばもろうて、もう一度、天から降りてこの世で暮らすことになったばってん、天帝様から、
「お前のケガレのなか清かからだば、貸してくれろ」
と言われてのう。
二月中ごろのある日の日暮れどき、大天使様は蝶々の姿に身ばかえて、丸屋の口の中に飛びこまれたちゅうバイ。
すると丸屋は、たちまち身持になったとタイ。
それからんこつが、自然に親に知れてのう。
丸屋は家を追い出されて、あっちこっち歩き廻った果てに、ベレン(ベツレヘム)の国に行き着いてのう。
そこん、一軒の農家の牛小屋の中で、とうとう赤子ば産み落としたとタイ。
牛小屋の牛や馬は、そん赤子ば寒さに凍(こご)えんごと、両方から息ば吐きかけて、ぬくめてやってのう。
そこん農家の嫁ごは、織っといた機(はた)まで打ち折って、囲炉裏(いろり)にくべて、親切に丸屋ばもてなしたちゅうバイ。
この赤子がキリスト様タイ。
聖母マリア伝説の変奏ですね。ルソンというからフィリピン経由で伝わってきたんでしょうか。途中にはギリシャ神話の影響を感じる部分もあったり、このお話の成立過程を想像すると楽しいです。( 男性 )
とてもよかったです。( 30代 / 男性 )
読書の勉強になった!
むかし、あるところに一人の貧乏(びんぼう)な男があったと。 ある日の晩方(ばんかた)、男が畑仕事をあがって、山道を帰っていたら、うしろでもうひとつ足音がして、それが山の畑のあたりから、ずうっとついてくるふうだ。気味悪くなってふりかえったら…
「雪のサンタマリヤ」のみんなの声
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