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せんにんのごうち
『仙人の碁打ち』

― 長野県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、長野県の菅平(すがだいら)のふもとの仙仁(せに)という集落に、太平さんという樵(きこり)が住んでいたと。
 ある日、山で木を切っていると、ぼやの中に荷股(にまた)にちょうどいい木があったので、一本ひきぬいたと。それを杖にして、さあ帰ろうと、すたすた山を下って来た。
 ふとみると、目の前をいつあらわれたのかひとりのお爺(じい)さんが歩いて行く。
 長い杖をつき、真白な髪と長いひげ、着ているものは何やらゆったりしたもので、ただの人とは思われん。
 「はて、どこの人だらず」
とついて行くと、仙人岩のあたりでフッと姿を消した。 

 
 仙人岩は中が洞穴(ほらあな)になっていて、仙人が棲んでいるといわれていた。
 「ははぁ、ありゃ、仙人かもしれぬ」
 太平さんは、ひとりうなずいて、岩をそろそろまわった。で、洞穴の中をのぞいてみるとこりゃどうじゃ、今しがた目の前を歩いていた老人と洞穴の主人らしい老人が碁(ご)をうちはじめるところだった。 

 どちらも品のよい姿で、のんびりと石を置いていく。静かな山の空気の中に、ぱちりぱちり、という音が澄(す)んで響(ひび)いた。
 太平さんもまた碁好きだった。碁盤の上に石の数がふえていくにつれて、すっかり夢中になったと。
 「あそこの石はこうしたらいいに」
と思ったり、
 「さすが仙人の碁は、おらたちとちがう」
と感心したり、すっかり時の経つのを忘れたと。どのくらい経った頃かしらんが、そのうち、はっと我にかえった。


 「こりゃいかん、もう家に帰らねば」
と、ついていた杖を取りなおそうとしたとたん、太平さんは、よろよろっとよろめいて倒れた。
 先程(さきほど)ひきぬいて来たばかりの若木の杖が、すっかり朽(く)ちていたと。

 太平さんもいつの間にかすっかり年をとって、白髪頭(しらがあたま)のお爺(じい)さんになっておったと。 
 ようよう起きあがって仙人岩をのぞくと、そこにはもう仙人たちの姿はなく、静かな夕暮れの風があたりに吹きわたっていたと。

 それっきり。

「仙人の碁打ち」のみんなの声

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驚き

竜宮城へ行って帰ってきたらおじいさんになっていたというのと一緒だね。異世界を垣間見ると時の経過が早いんだよね。( 40代 / 女性 )

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