ただただ狸が可哀想( 40代 / 女性 )
― 長野県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに山寺があって、随頓(ずいとん)という和尚さんがおったそうな。
その和尚さんのところへ、毎晩のように狸が通って来て、和尚さんが寝ようと思っていると、雨戸の外から大きな声で、
「ズイトンいるかぁ」
と呼ぶのだと。
和尚さんは、はじめのうちは檀家の人でも訪ねて来たのかと思って、大急ぎで返事をしながら戸を開けてみたが、誰の姿も見当らない。
それが、毎夜、毎夜のこととて、さすがに
「さては、狸のやつめの仕業(しわざ)じゃな」
と気がついた。
「ようし、こりゃ負けられん。仕返しをしてやろう」
と、考えて、ある晩、芋や大根のごちそうをたくさんこしらえ、お酒もちゃんと用意して待っていた。
炬燵(こたつ)にはいって、お酒をチビチビ呑んでいると、やがていつもの時刻になって、裏山の笹やぶがゴソゴソ鳴った。
「どうやら、来たらしいわい」
と、ほくそえんでいると、案のじょう、
「ズイトン いるかぁ」
と、呼び声がした。
そこで、和尚さんが横手の窓からそぉっとのぞいてみると、狸は自分の太い尻尾で雨戸をズイとなで、こんどは腹鼓(はらづづみ)をトンと叩いては、
「ズイトン いるかあ」
と、呼んでいるのだと。
「こりゃおもしろい」
和尚さんは、炬燵へもどって、
「うん おるぞ」
と、狸に負けない大きな声で、返事をした。
「ズイトン いるかぁ」
「うん おるぞ」
と、こうして狸と和尚さんの問答合戦がはじまった。
問答合戦は夜通し続いたと。
が、和尚さんは、酒とごちそうがあるので、元気いっぱい。大声で返事をし続けたと。
狸の方はっちゅうと、だんだん元気がなくなってきて、声もほそくなって、
「ズイ・・・トン・・・いる・・・かぁ」
「うん おるぞ」
「ズイ・・・ト・・・ン・・・」
と、声も途切れがちで、しまいには、ウンともスンとも言わなくなってしまったと。
「そうれ、狸のやつを、とうとう負かしたぞ」
と、喜んでいるうちに、和尚さん、酒の酔がまわって、ウトウトしはじめ、いつの間にかグ―グ―眠ってしまったと。
あくる朝になって、和尚さんが目をさまして雨戸を開けてみると、縁側には、おおきな狸が腹の皮を叩き破って、死んでおったそうな。
そればっかり。
ただただ狸が可哀想( 40代 / 女性 )
むかし、甲斐(かい)の国、今の山梨(やまなし)県のある村に一人の旅人がやって来た。そして、 「村の衆(しゅう)、わしは医者だけんど、この村に住まわせてくれんかー」 というた。
むかし、むかし、大むかし。お日さまとお月さまと雷さまが、三人そろって旅に出かけた。ところが、雷さまは生まれつき気があらいもんだから、行くところ行くと…
昔、あるところに親子三人がひっそり暮らしておったと。おとっつぁんは病気で長わずらいの末とうとう死んでしまったと。おっかさんと息子が後にのこり、花をつんで売ったりたきぎを切って売ってはその日その日をおくるようになったと。
「ずいとん坊」のみんなの声
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