― 長野県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに山寺があって、随頓(ずいとん)という和尚さんがおったそうな。
その和尚さんのところへ、毎晩のように狸が通って来て、和尚さんが寝ようと思っていると、雨戸の外から大きな声で、
「ズイトンいるかぁ」
と呼ぶのだと。
和尚さんは、はじめのうちは檀家の人でも訪ねて来たのかと思って、大急ぎで返事をしながら戸を開けてみたが、誰の姿も見当らない。
それが、毎夜、毎夜のこととて、さすがに
「さては、狸のやつめの仕業(しわざ)じゃな」
と気がついた。
「ようし、こりゃ負けられん。仕返しをしてやろう」
と、考えて、ある晩、芋や大根のごちそうをたくさんこしらえ、お酒もちゃんと用意して待っていた。
炬燵(こたつ)にはいって、お酒をチビチビ呑んでいると、やがていつもの時刻になって、裏山の笹やぶがゴソゴソ鳴った。
「どうやら、来たらしいわい」
と、ほくそえんでいると、案のじょう、
「ズイトン いるかぁ」
と、呼び声がした。
そこで、和尚さんが横手の窓からそぉっとのぞいてみると、狸は自分の太い尻尾で雨戸をズイとなで、こんどは腹鼓(はらづづみ)をトンと叩いては、
「ズイトン いるかあ」
と、呼んでいるのだと。
「こりゃおもしろい」
和尚さんは、炬燵へもどって、
「うん おるぞ」
と、狸に負けない大きな声で、返事をした。
「ズイトン いるかぁ」
「うん おるぞ」
と、こうして狸と和尚さんの問答合戦がはじまった。
問答合戦は夜通し続いたと。
が、和尚さんは、酒とごちそうがあるので、元気いっぱい。大声で返事をし続けたと。
狸の方はっちゅうと、だんだん元気がなくなってきて、声もほそくなって、
「ズイ・・・トン・・・いる・・・かぁ」
「うん おるぞ」
「ズイ・・・ト・・・ン・・・」
と、声も途切れがちで、しまいには、ウンともスンとも言わなくなってしまったと。
「そうれ、狸のやつを、とうとう負かしたぞ」
と、喜んでいるうちに、和尚さん、酒の酔がまわって、ウトウトしはじめ、いつの間にかグ―グ―眠ってしまったと。
あくる朝になって、和尚さんが目をさまして雨戸を開けてみると、縁側には、おおきな狸が腹の皮を叩き破って、死んでおったそうな。
そればっかり。
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昔、あるところに、ちゅうごく忠兵衛(ちゅうべえ)さんという人があった。なかなかの善人(ぜんにん)だったと。ある冬のこと。その日は朝から雪が降って、山も畑も道も家もまっ白の銀世界だと。寒うて寒うて、だあれも外に出ようとせんかったと。
「ずいとん坊」のみんなの声
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