― 宮崎県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところにひとりの正直な婆(ばあ)さんがあったと。
ある雨降(あめふ)りの日、婆さんが町へ用足(ようた)しに出掛けたら、途中の道端(みちばた)で、地蔵さまが濡(ぬ)れそぼっておられるきに、
「これこれ地蔵さま、雨にひん濡れて冷たかろうや。もうちょっと辛棒(しんぼう)しとってな」
と声をかけ、町で編(あ)み笠(がさ)を買うてきて、地蔵さまにお被(かぶ)せしたと。
そしたらその晩(ばん)、婆さんの家の戸を、とんとんと叩(たた)く者があった。
戸を開けたら、編(あ)み笠(かさ)を被った地蔵さまが、
「こればあさん 笠賃(かさちん)よ」
というて、山吹色(やまぶきいろ)の小判(こばん)を、土間に投げ込んでくれた。
貧(まず)しかった婆さん、たちまち金持ちになったと。
その隣りに欲深(よくふか)の婆があった。
「貧乏(びんぼう)たれの婆めが、このところ、町から米だの味噌(みそ)だの、何だかんだの買うてきて、歳(とし)取り仕度(したく)をしとるようだが、はて、何で急に福々しくなった」
というて、気になって仕方ない。訊(き)きに行ったと。
「お前ん家、何か変わったことあったかぁ」
「どうしてだぁ」
「急に銭(ぜに)持ちみたいな暮らし振りになったから」
「あれま、気付かれちょったか。実は…」
と、正直婆さんが語るお地蔵さまとのいきさつを聞いた隣りの欲深婆(よくふかばあ)、
「うまくやったの」
といいおいて、家に帰って行った。して、
「よし、おれもお礼をもらう」
というて、雨が降る日を待っていたと。
雨が降ってきた。
喜(よろこ)んだ隣(とな)りの婆、町から編み笠を買ってきて、地蔵さまのところへ行った。正直婆さんが被せた編み笠をぬがせて、買ってきた編み笠を被せたと。
家に戻った隣りの婆、
「これで晩になったれば、地蔵さま『こればあ、笠賃よ』とて、小判持って来よる」
と、にんまりしちょった。
その晩、眠らないで待っちょったが、地蔵さまは来なかった。
次の晩も、その次の晩も地蔵さまはやって来ない。業(ごう)を煮(に)やして、催促に行った。
「これやい、おれ毎晩寝ずに待っちょるんぞ。じらさずに早よ来い」
というて、地蔵さまの頭を、笠の上から掌(てのひら)でペチンと叩(たた)いて帰ったと。
そしたらその晩、やっと地蔵さまがやってきた。
とんとんと戸を叩いて、
「こればあ、笠賃よ」
といって、地蔵さまが投げ込んでくれたのは、何と、ちぎれた馬のワラジだったと。
かんかんに怒った隣の婆、
「こんげなへぇとも知れん物、湯殿(ゆどの)さくべちまえ」
といって、風呂の火釜(ひがま)さくべたと。それでも気がおさまらない隣の婆、今度ぁ、その灰を裏の畑さぶちまいたと。
そしたら、その灰の中から、季節(とき)でもないのに竹の子が一本、にょっきとはえてきてずんずん大きくなった。伸びて、伸びて、天井(てんじょう)まで伸びて、天のお倉の便所(べんじょ)に穴を開けたと。
天から、くっさい、くっさいうんこが、ざんば、ざんばと落ちてきて、隣りの婆ん家は埋もれてしまったと。
〽 ひとン真似(まね)すっと 糞(くぞ)かぶり
〽 ひとン真似すっと 糞かぶり
村ん人たちは、隣りの欲深婆おw、そう言って笑ったと。
もしもし米ん団子 早う食わな冷ゆるぞ。
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昔、あったそうじゃ。谷峠に人をとって食ってしまう、大変に恐い猫又が棲(す)んでいたと。強い侍(さむらい)が幾人(いくにん)も来て、弓矢を射かけるのだが、どれもチンチンはねて、当てることが出来なかった。
「こればあさん 笠賃よ」のみんなの声
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