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ききみみあぶら
『聴耳油』

― 宮城県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 むかし、あるところに一人の息子がおって病気で寝たきりのお父(と)っさんと、看病に明け暮れしているおっ母(か)さんと三人で暮(く)らしておった。
 息子はよその家々(いえいえ)を巡(めぐ)り歩いては賃働きをしておったが、そうやって得(え)たなにがしかのお金は、お父っさんの薬代に消え、食べる物にもこと欠くありさまだった。
 そのうち、なが患(わずら)いのお父っさんは死んでしまったと。


 お父っさんが亡(な)くなったのを機(き)に、息子は賃働きをやめた。山へ行って薪(たきぎ)をとって町へ売りに行ったり、おっ母さんが坪前(つぼまえ)に植(う)えていた花をきっては売りに行くようになった。
 暮らしむきは細々(ほそぼそ)としたものではあったが以前よりは食べられるようになったと。


 長雨(ながあめ)が続いたある日、息子は花を売りに町へ行ったが、ほとんど売れ残ってしまった。
 川辺(かわべ)りの水神様(すいじんさま)をまつってあるお堂(どう)に腰掛(こしか)けて、
 「持って帰っても枯(か)れるだけだ。竜神さまにあげよう」
というて、花を川に投げてやった。
 
聴耳油挿絵:福本隆男


 疲れた息子(むすこ)は、お堂で雨宿(あまやど)りをしているうちに、うとうとと眠ったと。
 そしたら、竜宮(りゅうぐう)のお姫さまが現れて、
 「ただいまは、たくさんの花を下さってありがとう。竜宮世界は、今、雨つづきで気うつでしたから、みなみなおお喜びです。なにかお礼をあげたいと思い来ました。あなたの身につけてあげましょう」
というて、両方の耳たぶに、油のようなものをつけてくれたと。
 お姫さまが左の耳たぶに触れたとき、息子は目がさめた。


 「はて、今のは夢だったか」
とつぶやきながら、あたりを見まわたしたら、もうすっかり夕景色だ。
 「早よ家に戻らにゃ」
というて、帰りよった。
 山道に差しかかったら、カラスが啼(な)いた。そのカラスの啼き声が、
 「庄屋の娘が大病人カァカァ。庄屋の家では、雨の降るとき地搗(じづ)きをして、館(やかた)の大黒柱(だいこくばしら)の下に大きな蛙(かえる)が押さえこまれて困っとる。カァ。寝石(ねいし)をのけて、じわりじわり掘(ほ)って、蛙を北へにがしたら、病気が治るカァ。」
と聴こえた。


 「カラスがものを言うてるとは識(し)らなんだ。竜宮のお姫さまのお礼じゃろうか」
 息子は家に戻って、おっ母さんに話したら、
 「そりゃ、早よう庄屋どんに知らせにゃいかん」
というて、息子ともども庄屋さんの館へ行った。
 すると、カラスの言うとおり庄屋さんの娘は大病を患(わずら)って、今日明日(きょうあす)もしれん様子だと。
 庄屋さんは、息子の話を聞いて、すぐに大黒柱の下を掘ったと。


 寝石をどけて、その下をじわりじわりほったら、大っきな蛙が片目つぶして押さえられとった。庄屋さんが
 「蛙どん、すまなんだ。本当にすまなんだ」
というて、両手で持ち上げ、そろりそろり地面に置いてやったら、蛙は片目をくるくるさせて、右に左に頭を傾(かたむ)けながら、のたりくたり北をさして這(は)い歩いて行った。
 それから一ときもしたら、今にもしにそうだった庄屋さんの娘がパチッと目を開け、病気が治ったと。
 娘は庄屋さんから訳を聞いて、
 「このお方は私の命の恩人です」
といえば、庄屋さんも、
 「竜神さんに見込まれたお方なら、是非とも娘の聟(むこ)になっていただきたい」
と、頭を下げて願うたと。

 
聴耳油挿絵:福本隆男

 それから間もなく盛大(せいだい)な婚礼(こんれい)があって、おっ母さんも一緒に暮らして、一生安楽に過ごしたと。
 
 こりぎりの話。

「聴耳油」のみんなの声

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なんで耳たぶに油のような物をぬると、どうぶつの声が聴こえるようになったんだろう。( 10歳未満 / 男性 )

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蛙がシレっとしてていいですね!( 50代 / 女性 )

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楽しい

どんな教訓かわかりません。

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