民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 妖怪的な動物にまつわる昔話
  3. かしこ淵

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

かしこぶち
『かしこ淵』

― 宮城県 ―
語り 平辻 朝子
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭

 むかし、陸前の国(りくぜんのくに)、今の宮城県(みやぎけん)にひとりの男がおった。
 ある日、男が谷川(たにがわ)で魚釣りをしていたと。
 ところが、その日はどういうわけか一匹も魚が釣れなかった。そこで場所を変えてみようと、川の上流(じょうりゅう)へ行くと、そこには水の青い、いかにも深そうな淵(ふち)があった。
 「よし、ここで釣ってみるか」 男が釣り糸をたらすと、すぐに魚がかかった。面白(おもしろ)いように釣れる。少しの間にビク一杯(いっぱい)の魚が釣れた。男は、
 「これはよい釣り場を見つけた。でも、釣れすぎるのも疲れることだわい。ちょいと一休みするか」
と、岸辺(きしべ)にゴロリと、横になった。


 一眠りして、なにげなく淵を見ると、淵の中から水グモが出てきた。水グモは、岸辺にねころんでいる男のところへやってきて、クモの糸を男の足の親指にくるりとひっかけた。そして、もとの淵の中へ入って行った。 しばらくすると、また、淵の中から水グモが出てきて、クモの糸を男の足にかけていった。
 「はて、変なことをする」
と思って見ていると、水グモは何度も何度も淵と男の足の親指との間を行ったり来たりするのだった。
 そうして、いつの間にか、男の足の親指には指の太さほどの糸がしっかりと巻き込まれていたと。
 男は、クモが淵の中へ戻ったすきに、足の親指から糸をはずして、そばにあった柳(やなぎ)の木の根っこに糸をひっかけておいた。
 そうしたら、淵の底から、
 「太郎(たろう)も次郎(じろう)も、みんな来ぉい」
と、声がした。


 何事(なにごと)かと思って、男が淵をのぞきこむと、今度は、
 「えんと、えんやらさぁ。えんと、えんやらさぁ」
と、かけ声がきこえてきた。だんだんかけ声は大きくなり、
 「えんと、えんやらさぁ」
と、ばかでかい声がして、男のそばの柳の木が、メリメリメリーと音をたてて、根こそぎ淵の中へ引きずりこまれていった。
 男は、ほっと胸をなでおろし、
 「あぶないところだった。柳の木に糸を巻きかえておいたおかげで命拾(いのちびろ)いをした」
と、独言(ひとりごと)を言った。すると、淵の中から、
 「かしこい、かしこい」
と声が聞こえてきた。
 こんなことがあってから、人々は、この淵を"かしこ淵"と呼ぶようになったそうな。
 不思議なことに「かしこ淵」はいろいろな県にある。

  まんまん えんつこ さげぇた。

「かしこ淵」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

感動

僕は仙台の出身ではありませんが、10歳くらいまで、仙台市の山上清水(旧茶屋町)で育ちました。当時は近くにプールもなかったので、夏には広瀬川で水遊びをしていました。住んでいた家の真下辺りで広瀬川が大きく曲がっており、カーブ付近に子供では足が立たないほどの深い「淵」がありました。溺れるから子供らは近づくなと教えられていました。 当時、近所に何歳か上のお兄さんが居ました。小さい頃から、ずば抜けて賢いことで知れ渡っており、「山上清水の賢淵(かしこぶち)」と呼ばれていました。 河原で賢淵と呼ばれた場所を覗き込むと、いつも、水面は静かで川底の方が青黒く見通せない状態でした。 子供心に、思慮深い事を「淵」と呼ぶのかなと思っていました。 その後広瀬川の上流に大倉ダムが建設され、下流の河原も水量が減って水位が下がってしまい、賢淵と呼ばれた場所は、ハッキリ見えなくなってしまいました。( 60代 / 男性 )

驚き

これが女郎蜘蛛伝説か。( 20代 / 男性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

トト、おるかぁ(とと、おるかぁ)

昔、ある山の中に、若い夫婦者があったと。二人には子供もなかったし、人里離れた山の中だし、身を寄せあって、仲好う暮らしていた。

この昔話を聴く

観音さま二つ(かんのんさまふたつ)

むかし、ある山奥に山姥(やまんば)が棲(す)んでおったと。山のふもとの村人が、山へ入って柴刈りや山菜採(さんさいと)りをしていると、どこからともなく…

この昔話を聴く

天狗の隠れみの(てんぐのかくれみの)

むかし、あるところにばくち打ちがおったそうな。あるときばくちに負けてフンドシひとつになってしまったと。「カカァの着物を質に入れて金を作ったのに、俺ら…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!