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ゆきおんな
『雪女』

― 宮城県 ―
語り 平辻 朝子
再話 佐々木 徳夫
整理・加筆 六渡 邦昭

 むがすむがす、白河様(しらかわさま)という殿様(とのさま)の頃の話だど。
 ある雪の降る夜、お城の夜の見廻(みまわ)り番の侍だちが四方山話(よもやまばなし)に花を咲かせてたど。
 「今晩のように雪の降る夜は、お城に雪女が出るといううわさだが、聞いたごどあるが」
 「まさか、雪女なんぞでるはず無(ね)べ」
 ひとりの侍がこういって、小便をしに出たど。
 用事をすませて、ひょいっと頭をあげたら、降りしきる雪の中に、赤ん坊を抱いた女の姿が、ボーッと見えたど。
 「今時分(いまじぶん)、誰だべ」
と思ってだら、スーッと寄っできで、
 「もし、お侍さん、雪の中に大事な物を落どして捜(さが)していたげんども、この児(こ)が重いんで、いっとき抱いてて呉(け)らえん」
て言うた。


 侍は、女が気の毒に思えて、赤ん坊を受け取ると、赤ん坊は氷のように冷たかったど。
 女は何かを捜しているふうだったげんども、雪の中さ、スーッと消えてしまったど。
 ほうしたら、抱いていた赤ん坊がだんだん重くなってきて、抱えきれなくなった。下さおろすべとしたら、ぴったり腕さひっついて離(はな)れねぇんだど。
 侍は気味悪くなって、助けを呼ぼうとしたげんども、声が出ねぇんだど。
 赤ん坊はますます重くなってくる。
 侍はこらえてこらえて、息もつけなくなって、とうとう気を失ってしまったど。
 見廻り番の詰所(つめしょ)では、小便に出かけた仲間がなかなか戻らねぇんで、皆して捜したら、侍はぶっといツララを抱えて気絶していたど。

 
 それから幾日(いくにち)か経った雪の降る夜、夜廻(よまわ)りのお爺(じ)んつぁんが、拍子木(ひょうしぎ)をカチカチ叩(たた)きながら、
 「火の用心、火の用心」
 って歩ってたら、、松の木の根元で、女が長い髪の毛をとかしていたど。
 こんな夜更(よふ)けに、しかも雪の降る晩におかしな女もあるもんだ、と思うて、
 「誰だぁ」
 って、とがめたど。
 「はい、わだしですかぁ」
 って、振り向いた女の顔を見だら、なんと三尺(さんじゃく)もある、目も鼻も口も無え、のっぺらぼうだったど。
 お爺んつぁんは「アワワワー」って、腰を抜かしてしまったど。
 それからというもの、雪女のうわさがいよいよ本当だということになって、大騒ぎになったど。
 そこで、腕に覚えのあるお城の家老(かろう)が、自ら見廻りを買って出たど。


 珍しく雪の降らない、月夜のことだった。
 「こんなに晴れあがった明るい晩に、よもや雪女なんぞ出ねべ」
といいながら家老が見回っていだら、すぐ目の前を一尺ばかりの小坊主(こぼうず)が、テクテク小走りで行くんだと。
 <これは あやしいぞ>
 と思って、家老が右さ寄れば小坊主は左さ寄り、左さ寄れば右へ寄る。
 <いよいよ あやしい>
 と思って、踏(ふ)んづけっぺとしたら、小坊主はコロコロと前さ転げて逃げんだど。
 <こいつは 化け物だ>
と思って、やっとつかまえて、両肩(りょうかた)をぐっと押さえつけ、
 「うん、うん」
 って力をいれたら、力をいれるほどに小坊主は大きくなって、家老と同じ背丈(せたけ)になったど。


 これより大きくなられでは何されるか分からんから、ぱっと手を離すや刀を抜いて斬りつけた。そいつは、
 「ギャーッ」
 って叫び声あげて、屋根の高さほども背が伸びてから、どうっと砕(くだ)けて、粉雪になって四方に散ってしまったど。
 そのとたんに、雪が降りはじめ、風も出て激しい吹雪(ふぶき)になったど。
 雪女は、そのあとは姿を現さなくなったど。

 こんで よっこもっこ さげた。

「雪女」のみんなの声

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