― 京都府 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔ある寺に、おおまかな和尚(おしょう)さんと小坊主(こぼうず)とが住んでおったと。
あるとき、檀家(だんか)から、
「和尚さん、法事(ほうじ)をしたいので、お経(きょう)をあげに来ておくれ」
言うて、頼みに来たと。ところが、和尚さんは、
「小僧(こぞう)や、今日は、わしは差しつかえがあって行けんで、お前、代わりに行って来てくれ」
と言うたと。小僧は、
「はい」
言うて、檀家へ行ったと。
小僧が出掛けたあとで、和尚さんは、
「はあて、あいつはお経を知っとたかな。教えた覚えは、あるような、ないような。はあて、まっ、何とかなるじゃろう」
言うて、ほかの用を足(た)しに行ったと。
小僧は道々(みちみち)考えながら歩いとった。
「気軽(きがる)に『はい』言うて、出て来たけんど、おれはまだお経を覚えとらんかった。ナムナムナムだけでええやろか。……おっ、雀(すずめ)がおる。石を投(な)げちゃろう」
道に雀が降りているのが目について、石を拾うて、ポーンと投げたら、うまいこと当たって、ころっと死んだと。
「うっひゃあ、うまいこといった」
喜んだ小僧は、そいつの羽根(はね)をむしって、足もとって、衣(ころも)の懐(ふところ)へちょいと入れて持って行ったと。
檀家へ着いて、
「今日は、和尚が差しつかえで、わしが代わりに来さしてもらいました」
言うたところが、檀家の人は小僧がお経を覚えとらんことは知らんから、
「ああ、そうか。そりゃよく来ておくれた。そんなら、ひとつ、上がってお経をよんでおくれえな」
言うたと。
小僧は、仏壇(ぶつだん)の前へ座って、ナムナムナムと始めた。しかし、どうもナムナムナムだけじゃかっこうがつかん。どうしようかと手を衣の懐にやったら、さっきの雀をつかんだと。
「そうだ、こいつをよんでやれ」
思うて、始めたと。
「ナムナムナム、雀や雀、われがなんぼ、ふごふご腹立(はらた)てても、足なし羽なし、とんとん飛ぶことも知らず。ナムナムナム」
言うて、お経みたいな節(ふし)で何辺(なんべん)もくり返したと。
檀家の人は、なんや知らん珍(めずら)しいお経なので、格別(かくべつ)ありがたがって御馳走(ごちそう)をふるまってくれたと。
お寺に帰ったら、和尚さんが、
「どうだ、お経はよめたかや」
言うて聞いた。
「へぇ、よめました」
「ほう、ちょっと聞かせてみい」
「へえ、そんなら、
ナムナムナム、雀や雀、われがなんぼ、ふごふご腹立てても、足なし羽なし、とんとん飛ぶこと知らず、ナムナムナム。
こういうお経です」
「ほう、何じゃその、雀や雀とかいうお経な、そりゃ、わしが教えたものかな」
「ちがいますよ和尚さん。おれ、まだお経を習(なら)っとらん。それなのに檀家へ行かせるものだから困って困って。途中で雀がとれたんで雀の経をあげて来た。おれ、まだ人のは出来んもの」
「檀家の人はそれを聞いて何と言うた」
「へえ、格別のお経、ありがたかったって」
こう言うたもんだから、和尚さんも大笑いしたと。
これも昔のたねぐさり。
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むかし、むかし、あるお寺に和尚さまと施物を司る納所坊主さんと小坊主との三人がいたと。ここの和尚さまは餅が大好きで他所から貰っていつも己ひとりで食べるのだと。
むかし、あるところにお爺さんとお婆さんがおった。あるとき、隣から餅を七つもらった。夜も更けて、天井にぶら下げたランプの下で、餅を盛った皿を真ん中に、お爺さんとお婆さんが向かい合って座っていた。
「雀経文」のみんなの声
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