― 熊本県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
河童(かっぱ)。夏の間、水の中でいろいろ悪さをするアレですがの。熊本のここあたりではガワッパと言う。
ガワッパは、夏が終って山に入ると呼び名が変わって、ヤマワロと言う。
ヤマワロが好きなのは、山桃の実だ。ヤマワロの腕はカカシのように右も左も継(つな)がって倍のびることができるから、山桃の実をとるときには、そうやって手をのばしてとるのだそうな。
人間が山桃をとるときには木のそばで、エヘンと言わねばならんよ。
そうするとヤマワロは、ははあ、人が来たな、と思うて逃げる。
ヤマワロは、よく仕事を手伝ってくれたそうな。
大きな木などを運ぶとき、股木(またぎ)をたくさん作って手伝いを頼むと、その股木をひとつずつ持って下から支えてくれるので、仕事が楽じゃと言った。
そんなときは必ずあとから、小豆飯(あずきめし)だの、※はったい粉を持って行って、地面にまいてやらねばならん。
するとヤマワロの姿は見えないが、みるみる無くなってしまうという。
ところが、いたずらな木樵(きこり)がおって、あるとき、ヤマワロにやったはったい粉を、ぷうっと口で吹き飛ばした。
するとヤマワロがびっくりしたとみえて、山ん中じゅう、木々がザワーッと音をたてたと。
そこで、その木樵が、
「そぎゃん、びっくりせんでよかたい。おれがいたずらしたたい」
と言うた。
※オオムギを炒って挽いた粉、別名「麦焦がし」
そんときはそれですんだが、それから何日かして、その木樵が斧(おの)を振りあげて木を切ったところ、木に当たらんで、我が足にあたった。はっと青くなったとたん、ザワーと山じゅうがざわめいて、どこからともなく、
「そぎゃん、びっくりせんでよかたい。おれがいたずらしたたい」
と言う声がした。さてはと思って、自分の足を見ると、ケガもなにもしとらなんだ。
八代郡(やつしろぐん)の方では、ヤマワロは、山小屋の囲炉裏(いろり)の自在鉤(じざいかぎ)を揺さぶって下りてくることがあったそうな。
そんなときは、「よう来た、よう来た」と言うて、一緒に遊んでやるとよい。
ときには火にあたっていると、くすぐったりして悪さもするが、かわいいもんだという。
また、風呂が好きで、よくガヤガヤいいながら入りに来た。
そこで、ある男がさめないようにと思って、自分が入ったあと火を燃やし続けておいた。
夜中になると、ヤマワロが来て風呂に入ったかと思うと、「ギャー」と叫んで風呂から飛び出した。熱すぎたらしい。人間のように手を入れて湯加減(ゆかげん)をみないのだからしょうがない。
そこで、その木樵はあわてて飛び出し、
「悪気でやったんではない。勘弁(かんべん)してくれろ」
と、申し開きをしたそうな。
ヤマワロが風呂に入ったあとは、どろどろと油のようなものが浮いて、水がひどく汚れているそうな。
そるばっかい。
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昔、ある渡場(わたしば)に乗り合いの船(ふね)があったと。お客を乗せて海を渡っていたら、急に船が動かなくなったと。いっくらこいでも、船は前にも進まない、後にも戻(もど)らない
昔、あるところに無精者(ぶしょうもの)の男があったと。あるとき、男は用たしに町へ出かけたと。家を出しなに、女房(にょうぼう)は握(にぎ)り飯(めし)をこしらえて、無精な亭主(ていしゅ)の首にくくりつけてやったと。
とんと昔もあったげな。狐と狸とあったげな。昔から、“狐は千年昔のことを識り、狸は三日先のことを知る”ということだそうな。あるとき、狸が山道をと通っていたら狐と出逢うたそうな。
「ヤマワロの話」のみんなの声
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