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きじもなかずば
『雉も啼かずば』

― 熊本県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに貧乏(びんぼう)な家があって、父さんと娘とが暮らしてあった。
 あるとき、村の普請(ふしん)があって、川の堤(つつみ)を築(きず)き直すことになったと。川の堤は大水(おおみず)が出る度に崩れ、田畑や家が水に浸(つ)かる。水がひいたらひいたで、今度は下痢(げり)を起こす病気が広がって被害甚大(ひがいじんだい)だったと。堤はなおしてもなおしても崩れたと。
 村の普請は村人総がかりの仕事だった。
 石を運ぶ者、土を積みあげる者、踏(ふ)み固める者、炊き出し(たきだし)をする者、皆して働いたと。

 
 昼どきになってひと休みしているとき、村長(むらおさ)が、誰に言うともなく、
 「いつもの、このやり方でええもんかのう。また崩れやせんかのう」
というた。すると、
 「他のどこやらでは、人柱をたてたという話を聞いたことがあるが」
と、いう者があった。するとまた他の者が、
 「わしも聞いたことがある。橋を架(か)けるとき橋下駄(はしげた)の下に人柱を埋(う)めると、その橋はどんな大水が出ても流されない。こんな話じゃった」
と、いうた。村長が、
 「かというても、ここでそれをやるというのはのう。第一、誰を人柱にするかが問題じゃろが」
というたら、
 「縦縞(たてじま)に横縞(よこじま)のつぎを当てている者を立てるっちゅうのはどうだ」
という者がいた。それが貧乏な家の父さんだったと。

 
 皆が父さんを見ると、父さんの着物がそうだったと。みんなの目があやしく光った。
 「な、な、なんだぁ。妙な目付きをするなや。ほんの軽口(かるぐち)だ。俺んところは縦縞に縦縞のつぎをあてることも出来ん貧乏所帯(びんぼうじょたい)なもんで、もしかして、選ばれるとなりゃ、俺みたいな者にお鉢(はち)が回ってくるのかなぁ、と思うて言ってみただけだ。軽口だや、軽口」
 あわてて言い訳をする父さんの物腰(ものごし)が、村長をはじめ、そこにいた者たちの秘めた心にきっかけをあたえたと。
 父さんは村人たちに、じりじりと詰(つ)め寄られ、つかまり、俵(たわら)に入れられたと。そして、とうとう堤に掘った穴に埋められたそうな。

 
 堤は出来上がり、それからは、どんな大水が出ても崩れないようになったと。
 しばらくたって、父さんの娘が嫁(とつ)いだと。
 ところが嫁ぎ先で娘は、「はい」と小声で返事はするものの、他のことは一言もしゃべらなかったと。 聟(むこ)どのは腹たてて、
 「こんな嫁はつまらん」
と言うて、里にかえすことにしたと。
 聟どのが娘を連れて送り返す途中の山道で、雉(きじ)が、ケンケンと啼(な)いた。すると猟師(りょうし)が鉄砲でズドンと撃(う)ち殺したそうな。
 娘はそれを見て、
 〽
 世間にはいうまいものぞ軽口は、
 雉も啼かずば撃たれまいものを

 と詠(うた)った。


 聟どのは、
 「お前話せるのか。そうかお前の父さんが軽口を言うたばかりに人柱に立たされた。それで物を言うまいと思うて、返事よりほかはせんじゃった。そうだな。そうとは知らず、いや、そうとは思いやらず、俺が馬鹿(ばか)じゃった」
と言うて、娘をまた家に連れ戻ったと。

 こいで しみゃー。

「雉も啼かずば」のみんなの声

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感動

雉も鳴かずばといえば、日本昔ばなしに出てくる千代ちゃんの話だけだと思っていたのですが、熊本にも同じような話があったんですね。 前半は残酷な怖い話ですが、最後に娘の気持ちに寄り添ってくれた婿さんにウルっときました。 千代ちゃんの話と違い、悲しい体験から余計なことを喋らずに、ひっそり暮らしてきた娘さんのことを理解してくれて、気持ちに寄り添ってくれる伴侶と暮らすことの出来た娘さんの話は救われる気がします。娘さんが優しい婿さんに巡り会えて良かった。( 50代 / 女性 )

驚き

なんてこったww

悲しい

ただ、貧乏だっただけなのに、なんでこんなことになるんだろう。(涙)( 10歳未満 / 男性 )

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