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かみなりのみやげ
『雷の土産』

― 高知県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
出典 土佐民話の会編「土佐の民話」64号所収

 とんとむかし。
 土佐(とさ)の野根(のね)の別役(べつやく)のおんちゃんが野根山越(のねやまご)えをしよったら、急に大雨が降りだしたそうな。
 おまけに雷(かみなり)まで大っけな音をたてて、バリバリ鳴り出したき、たまらん。おんちゃんは泡(あわ)くって、すぐ近くの宿屋杉の根元の洞(うろ)の中へ走りこんだと。

 
雷の土産挿絵:福本隆男
 
 篠(しの)つくような大雨は、野根山(のねやま)をすっぽり包んで、降って降って降りまくったが、その大雨を切り割くようにピカーッ、ピカーッと稲光(いなびかり)がすると、今度はゴロゴロドシャーンと耳もふさがるような音がして、目の前に太い火柱が立ったそうな。


 おんちゃんは、それこそ「ヒエー」と悲鳴をあげるなり、気が遠くなってしまったと。
 それからどれくらいたったか。
 気がついたときにゃ大雨も降り止(や)み陽(ひ)も差して、さっきまでの雷や雨はまるっきり嘘(うそ)みたいじゃったと。
 おんちゃんは、やれやれと宿屋杉(やどやすぎ)の洞から這(は)い出して、下り坂をてくりてくり下りよったら、たまるか、道のまんなかで雷が赤ちゃんみたいに這いまわりよったそうな。
 たまげたおんちゃんが、
 「おまん、どうしゆうぞね。そんな格好で」
と声を掛けたら、雷が言うには
 「さっきのう、大雨を降らしたら杉や檜(ひのき)やらが喜んでおるきに、もっと降らしちゃろうと思うて力まかせに雨降り太鼓(だいこ)を叩(たた)きよったらのう、力がありあまって、足元の雨雲(あまぐも)を踏(ふ)み破(やぶ)ってまっさかさまに落っこちてしもうたんじゃ。

 
雷の土産挿絵:福本隆男

 そいたらのう、道に出ておる杉の根っこに腰をがいに打ちつけてしもうて、痛うて痛うて起きあがれんきに這いまわるよるがじゃ。
 おんちゃんよ、まっことすまんがのう、わしの身体(からだ)をそこいらの大きな木に押し上げて登らしてくれんもんかいのう。


 そしたら雷の神通力(じんつうりき)が出てきて、空へ行けるがじゃ。地上にいてはさっぱり神通力が出んきにのう」
 こういうて、雷がペコペコ頭を下げるもんじゃきに、おんちゃんは雷がちっくと可愛そうになって、そこにあった榊(さかき)の木に押し上げてやったと。
 そしたら、雷は神通力が出て元気になったのか、榊の木のてっぺんへガサガサ登って、頭の先からピカリと稲妻を出し、尻からはゴロゴロ音を出した。そして、
 「おんちゃんよ、二・三日したらお礼に行くきに、住んじょる所を教えてや」
というきに、
 「おら、野根の別役の重吉じゃ。今は娘と二人暮らしじゃ」
と、家を教えて帰ったそうな。


 それから三日経った夕方のことじゃ。おんちゃんが山仕事から家に帰ったら、娘が、
 「お父(とう)よ。今日のう、男の人が家へ来よったぞう」
というた。
 「ふうん、誰(だれ)じゃった?」
 「知らん、見たことのないお人じゃったが、それがなぁ『おいは野根山の雷やが、三日前にここのおんちゃんに助けてもろうたきに、お礼に来たがじゃ』こういうて、重箱(じゅうばこ)を置いていったよ」
 「ほう、あん雷が礼に来たか」
 おんちゃんは喜んで、娘に重箱のフタを開けさせて二人で中を見たと。


 そしたら、一番上のお重にはボタ餅がずっしりと詰まっちょったと。
 二番目のお重にはお寿司が一杯入っちょる。
 三番目はと見ると、こりゃまたなんと、ヘソがぎっしり並べてあったそうな。
 おんちゃんは感心していうたと。
 「雷は人さまのヘソを盗(と)って食うというが、本当じゃったか。それにしてもこんなにまあたくさんのヘソを、ようも集めたもんじゃ。
 そりゃそうと、ヘソの下は何(なん)なら。早う開けてみいや」

 
雷の土産挿絵:福本隆男

 そしたら、娘は、顔をまっ赤にして、
 「何ぼお父が言うたち、ヘソの下は見せるわけにゃいかん」
いうて、怒ったそうな。
 
 むかしまっこう、さるのつべぁ ぎんごろ ぎんごろ。

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