民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 世間話にまつわる昔話
  3. 久米七の妖術

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

くめしちのようじゅつ
『久米七の妖術』

― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎

 とんとむかし、土佐(とさ)の窪川(くぼかわ)の藤(ふじ)の川に、久米七(くめしち)という男がおったそうな。土佐の人ではなく、肥後(ひご)の生まれとか、また、久米(くるめ)の仙人(せんにん)の生まれかわりとか言われたりして、その正体ははっきりせざったと。
 とにかく、ある日ぶらりとやってくると、ここに住みついて、ぶらり、ぶらりと暮(く)らしておったそうな。

 
 ある朝、久米七が囲炉裏端(いろりばた)で一杯(いっぱい)やっていると、興津(こうず)から魚売りがやってきた。
 「そのなかの鰹(かつお)を一本、ただでくれんかよ」
 こう久米七がいうと、魚売りは、
 「いかん、いかん。こりゃ売りもんじゃき、やれるか」
と、すげなく答えたそうな。
 「そうか。どうしてもいかんかよ」
 久米七は、こう言いながら、かたわらのうちわをとって招(まね)くようにあおぐと、たちまち前の畑は一面の海になり、みるまに庭のかづら石まで波が押(お)し寄(よ)せてきたと。
 すると、カゴの中の魚はピョンピョン飛び出て、海のなかへ潜(もぐ)って一匹(ぴき)も見えなくなってしもうた。


 これを見て青くなった魚売りは、
 「久米七さんよ、なんとかならんかよ」
と、泣きそうになって頼(たの)んだ。久米七は、
 「ひとつくれたら、元のとおりにしちゃるが、それでええかや」
と念をおした。魚売りは、もう一も二もなく、
 「ええとも、ええとも、お願いします」
と、うなずいたと。

 すると久米七は、またうちわをとって、向こうむきにあおぐと、さあっと潮(しお)がひいて、魚はピョンピョン、カゴのなかへ返ってきた。
 久米七は、約束どおり鰹を一本もらうと、夕方まで酒をチビリチビリ楽しんだそうな。


 いつの頃(ころ)の話か、はっきりはしないが、窪川には妖術(ようじゅつ)つかいの久米七の面白い話がほかにも残っている。
 
 むかしまっこう さるまっこう
 さるのつべはぎんがりこ。

「久米七の妖術」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

ほんとうに久米七みたいな人が存在するのでしょうか?!( 10歳未満 / 男性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

谷峠の猫又(たにとうげのねこまた)

昔、あったそうじゃ。谷峠に人をとって食ってしまう、大変に恐い猫又が棲(す)んでいたと。強い侍(さむらい)が幾人(いくにん)も来て、弓矢を射かけるのだが、どれもチンチンはねて、当てることが出来なかった。

この昔話を聴く

もんじゃの吉(もんじゃのきち)

昔、あったと。もんじゃ(茂沢)の吉は長者どのの家で嫁こを探しているということを聞いた。野っ原の方に歩いて行くと、狐が化けくらべをしているのに出会った…

この昔話を聴く

狼の忘恩(おおかみのぼうおん)

 むかし、あったと。  あるとき、狼、のどさ骨(ほね)ひっかげて苦しんでいたけど。  「ああ、せつねゃ。たれか、この骨抜いで呉(け)だら、うんと良(え)え物呉(け)るぞ。ああ、だれか頼(たの)む。」 て、狼、ウン、ウンうなって、しゃべったど。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!