― 鹿児島県喜界島 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤
むかし、むかし、九州のずっと南にある喜界(きかい)ガ島(じま)というところに、二人の王さまがおったそうな。
アラキ王とシドケ王といって、ふたりとも、大層(たいそう)力持ちの王さまだったと。
あるとき、アラキ王が、ひとつ、力競べをしてやろうと思いたって、シドケ王のところへやってきた。家の前で、大声で、
「シドケ王はおいでか。わしはアラキだ。今日は力競べにやって来ましたぞ」
と、呼ばったら、家の戸が開いて、内(なか)から、シドケ王の奥さんが出て来た。
挿絵:福本隆男
「どうぞ、こちらへお入り下さい。シドケ王は、まもなく帰ってきますから、しばらくここでお待ち下さい」
と、いうので、アラキ王が玄関に入ると、式台(しきだい)の前に、仁王(におう)さまがはくような、鉄の大足駄(おおあしだ)があって、そのそばには、鉄のつえも立てかけてあった。柱みたいに太いつえだ。
「これは、なかなか手強(てごわ)い相手だぞ」
アラキ王は、ためしに、その足駄(あしだ)をはき、そのつえを持って歩き出そうとしたら、いやその重いこと、重いこと、足がびくともしない。
うーんと、力を入れてうなっていると、にわかに外が暗くなった。
戸の間から外をのぞくと、たきぎの山が歩いてきた。そして、
「おーい、今、帰ったぞお」
と大きな声でたきぎの山が言ったから、アラキ王が目をしばたいて、よおっく見たら、何と、シドケ王が山のようなたきぎをかついでおった。
「これはなかわん」
アラキ王は、いっぺんにおそろしくなって、こそっと、玄関から抜け出し、どんどこ、どんどこ、自分の家の方へ逃げていった。
シドケ王が、奥さんからこのことを聞くと、
「ようし、それでは、これから追いかけて行って、どうでも、力競べをしてくれる」
と、かけ出して行った。
シオミチという海ばたの道をかけていくと、向こうに坂道があって、アラキ王が駆けのぼって、もう、向こう側へおりかけておった。
そこでシドケ王が、雷(かみなり)のような声で叫(さけ)んだと。
「シオの坂、さがれーい」
すると不思議(ふしぎ)なことに、そのシオの坂が、ペコンと低くなって平らになったと。
それでも、アラキ王は、まだ風のように走って逃げて行く。
そこで、シドケ王が、また、雷声で、
「大川ー、出ろー」
と叫んだ。
すると、これまた不思議(ふしぎ)。村はずれに、あっというまに大きな川が出来たと。
逃げ足の速(はや)いアラキ王は、その川をひとっ跳(と)びに跳び越(こ)して、オデンという姉さんの家へかけこんだ。
そこへ、シドケ王がやっと追いつき、
「そちらから持ちかけた力競べじゃ。アラキ王、さあ出て来い」
と呼びたてた。
すると、アラキ王の姉さんが出て来て、
「力競べは、まず、この姉から」
という。シドケ王は、
「なんの、この女め」
というやいなや、姉さんをひとつかみにして、屋根より高く投げあげた。
ところが、この姉さん、なかなかの力持ちで、落ちてくるが早いか、今度は、シドケ王をおかえしとばかりに、屋根より高く投げあげた。
シドケ王は、運わるく、大きなクワの木の上に落ち、枝の間にはさまれたと。
挿絵:福本隆男
身体(からだ)を抜こうと足をふんばると、ヒョウタンが足元にたくさん転がっていて、コロコロして足に力が入らん。
さすがのシドケ王も、このアラキ王の姉さんには負けをみとめたと。
それでも、アラキ王には勝ったので、この勝負、引き分けということになり、ふたりの王さまは、それからは仲よくすることになったそうな。
そいぎいのむかしこっこ。
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むかし、むかし、あるところにあほな聟(むこ)さんがあった。 ある日、聟さんが嫁(よめ)さんに頼(たの)まれた用をたしに道を歩いていると、火事で大勢(おおぜい)の人達が働いていた。
「アラキ王とシドケ王」のみんなの声
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