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からすとたか
『烏と鷹』

― 鹿児島県 ―
語り 井上 瑤
再話 村田 照
整理 六渡 邦昭

 むかしは染物(そめもの)をする店を普通(ふつう)は紺屋(こうや)と呼んだがの、このあたりでは紺屋(くや)と呼んどった。
 紺屋どんは遠い四国の徳(とく)島からくる藍玉(あいだま)で染物をするのですがの、そのやり方は、藍甕(がめ)に木綿(もめん)のかせ糸を漬(つ)けては引きあげ、キューとしぼってはバタバタとほぐしてやる。
 このようにするので、いつも藍ガメで働いている紺屋どんの手足は紺に染まって、黒くなっていましたんじ
ゃ。

 ところで、烏も昔は紺屋どんをしておりましたんじゃ。
 だから、口ばしも足も紺に染まってしまい、ついには、着物まであお黒くなってしまったそうな。


 ある日のこと、烏の紺屋どんのところへ、鷹(たか)が訪ねてきよりました。
 鷹はきびしい目つきで、肩(かた)をいからして、
 「私の着物を上等の柄(がら)に染めてくれ」
と、頼みよったと。
 烏はやっかいな注文だ、と思うたが、相手がいかめしい鷹のこと、断(ことわ)るわけにもいかず、引き受けよったそうな。
 「では、たのんだよ」
といいながら、鷹は、ぐいっと目をひからせ、また肩をそびやかして、出て行きよりました。
 それからというもの、烏は毎日毎日、鷹の着物の柄を考えよりました。もう、他の頼(たの)まれものはそっちのけですじゃ。
 そのうち、どうやら、いい柄の染め物が出来上がりましての、そこへ鷹が見えたので、
 「どうです、いい柄でしょう」
というて、見せますと、鷹はじょう(大変)喜びましての、新しい着物を着たりぬいだりして、うれしそうにしておりましたそうな。


 しかし、染代のことになると、急にしぶい顔をして、代金は後で払(はら)うから、というて帰って行きよりましたと。
 それから烏は、たびたび鷹にむかって、染物代を払ってくれ、と頼みましたがの、なかなか払ってくれません。
 しまいには、道で出会うても、烏の姿(すがた)が見えると、鷹はこそこそと逃(に)げ出すようになりよりましたんじゃ。
 鷹は強い鳥で、他の小鳥などはいじめていますが、烏には染物代を責(せ)められるので、にがてなのです

 烏は鷹を見つけると、すぐ後を追っかけて行きます。鷹は烏に追われて、ぐるぐる逃げまわっていよりますが、もう逃げ場が無くなると、高い高い空の上にあがってしまいよります。
 烏は、そんなに高いところは目がまわるので、追いかけるのをやめて、地面におりてきます。

 
 そして、
 「また今日も、染代をとりそこなった。ガァガァ、鷹のアホウ、アホウ」
と、ぐちをこぼすのだそうな。
 
 そいぎいのむかしこっこ。

「烏と鷹」のみんなの声

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