― 鹿児島県種が島 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある村に両親にさきだたれた娘が一人で暮らしておった。
あるとき、娘は山に椎(しい)の実を拾いに行った。
その頃は鬼がいて、鬼ガ島から赤鬼がカゴをかついで娘を盗みに来ていた。
間の悪いことに、娘は山でその鬼に見つかり、あっという間もなく、カゴの中に押し込められてしもうたと。
娘はカゴの中で、叫んだりもがいたりして助けを求めたが、鬼の姿があんまり恐ろしゅうて、誰ひとり、手出しするものはなかったと。
鬼は、娘を入れたカゴを軽々と背負って海辺に行き、つないでおいた黒舟に乗せた。
鬼はその舟についているネジを巻いた。その舟はネジをかけると、千里も走ることが出来る舟だったと。舟は、あっという間に鬼ガ島に着いた。
娘は鬼たちから大層大事にされ、毎日を、まるで女王のように過したと。
しかし、日がたつにつれて、だんだん故郷(ふるさと)のことが恋しくなった。つい海辺に出ては、沖の方をながめていたと。
が、そのうち、鬼と娘との間に男の子が生まれた。
娘は生まれた子を見てびっくりした。目が一つしかなかったと。しかし、生まれたからには、と心をきめて、娘は母親として、その男の子を大事に大事に育て、名前を目一とつけた。
目一は病気ひとつせずに、すくすくと大きくなり、それに並はずれて頭がよくて、何でも自分でやる子だったと。また目一は、母親の心を読むことも出来る子であったと。
ときどき母親が海辺へ行っては、はるかかなたを見ているのを、さみしく思うこともあった。
ある日、目一は、母と子二人のとき、
「お母さんの国へ帰ろう」
というた。母は、目一に心を悟られたのを恥じ、
「お前にまで心配をかけていたんだね。ごめんよ。でも、もういいの、お母さんは、お前とここで暮らしているのが一番いいの」
というた。
それからまたしばらく経ったある日、目一が
「お母さんの国へ帰ろう」
というた。
「ありがとう目一、でもね、お前はお母さんの故郷がどんなところか知らないから、そう言ってくれるのヨ。帰ったら、お前にもいいことはないわ。故郷はときどき思い出すだけでいいの。だから目一や、この話はもうなしにしようね」
というた。
それから何年も経ち、目一は立派な若者に成長した。鬼の仲間うちでは一番の知恵者でゆくゆくは頭目(とうもく)になるのではないかといわれはじめたと。
そんなある日、目一は、
「お母さん、お母さんの国へ一度は行って見てきたい」
というた。母は目一がしっかりした若者になって、自分の考えでそう言っているのに気づいて、とうとうその気になったと。
それからは、鬼たちに気づかれないように準備にとりかかった。食べ物を揃(そろ)えたり、着物に金銀サンゴをぬい込んだりしたと。
鬼たちの留守のとき、母と目一は海岸に出た。黒舟が三艘(さんせき)浮かんでいた。ひとつの舟はネジを巻くと千里はしり、次の舟は万里(ばんり)はしり、その次の舟は、もっと遠くまで走る舟だと。
二人は三番目の舟に乗りネジを巻いた。あっという間に母の国の海辺に着いたと。
さて、母の国へ帰った二人がどうなったかは伝わっていない。
別のお話では、目ひとつが大阪で見せ物になっているのがあるので、もしかしたら、それが目一の、その後の姿かも知れんし、もしかしたら、それは別の鬼と別の娘との間に生まれた別の子の姿かも知れない。
そいぎいのむかしこっこ。
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明治から大正の頃のようじゃが、池の集落に、宮地というお爺が居って、いってつ者であったと。 楽しみといえば、中央の池に出て、鯉や鮒、鰻などを釣ってきて、家の前の堀池で飼い、煮たり焼いたり酢にもして晩酌の肴にしていたそうな。
「鬼ガ島の目一」のみんなの声
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