民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 動物の争いにまつわる昔話
  3. 猿の生き肝

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

さるのいきぎも
『猿の生き肝』

― 鹿児島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、竜宮浄土の乙姫さまが病気になられて、いっこうに治らないんだと。神様に見てもらったら、「猿の生き肝を食えばよくなる」と言われた。
 「ほうせば、だれが猿を連れて来るがら」
 「そら、亀がいい」
 そういうことになっての、亀が猿を連れて来ることになったと。
 亀が浜辺に泳ぎ着いてみれば、猿は浜の松の木に登っていたと。
 「猿どん、猿どん、いつも木にばかりつかまっていねえで、たまには竜宮浄土へ行ってみたあねえか」
 「行ってみたいども、おら泳ぐことがならん
 「ほうせば、おらが連れてってやるだ」 

 
 ほうして猿は、亀の背中に乗って、竜宮浄土へ行った。
 竜宮浄土では、りっぱな部屋に案内され、いい着物(べべ)着せてもろて、たくさんのごっつおだったと。その上、魚の踊りまで見せてもろうた猿は、すっかり気持ちよくなっての、喜んで遊んでいた。 
 ところが、あんまり食べすぎて、便所へ行きたくなっての、門のところまで行ったらば、門番のクラゲが話しているんだと。
 「猿のバカが、手前の生き肝を取られるのも知らんと、いい気持ちになって喜んでいらや」
 これを聞いた猿は、赤い顔を青くして驚いた。
 『おらの生き肝を取るだと、こらあ大事(おおごと)だ』と思って亀の処へ飛んで行った。 

 
 「亀どん、俺らは大変なことをした。ここ来る時に、大事な生き肝を木の上に干したまま来てしもた。ところが、どうも雨が降りそうだ。生き肝が腐るんでねえかと、俺ら、それが心配で」
 「なに、生き肝を木の上に干して来たと。そりゃ大事だ。俺らの背中に乗せて連れてってやるから、木から取り込んで来いや」
 「そうしてもらえればありがたい」
 そう言って、猿は、また、亀の背中に乗って元の浜辺へ、生き肝を取り込みに戻ったと。
 ほうして、猿はするするっと木に登ったまんま、下へおりてこないんだと。 

 
 「おおい、猿どん、はや、生き肝を取り込んで来いや」
 「何言うているや、俺ら生き肝なんか、ここに干してねえ。生き肝ちゅうは、出したり入れたりしられるもんでねえよ。生き肝を取られれば死ぬに決まってら、そんげな所へ、おら、え-いがんど」
と、持っていた石を、どんどん亀にぶっつけた。
 「なに、いて、いてて、誰がおめえの生き肝を取ると言うたや」
 「クラゲがそう言うたや」
 こうなると亀はどうすることも出来ない。独りで竜宮浄土へ帰って行った。
 ほうして、クラゲは、猿に聞かせた罰で骨を抜かれて終ったと。
 クラゲに骨が無くなったのは、これからだそうな。

 そいぎぃの昔こっこ。

「猿の生き肝」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

拇指太郎(おやゆびたろう)

むかし、あるところに爺(じ)さと婆(ば)さがあった。子供がなかったと。毎日、神様に、「おらたち、この先もふたりっきりで、淋(さび)しくってなんねぇ。

この昔話を聴く

婿の鬼退治(むこのおにたいじ)

 むかし、ある村にすぐれた娘(むすめ)をもった長者があった。  娘は器量もよいが、機織(はたおり)の手が速く、朝六(む)つから暮(くれ)の六つまでに一疋(いっぴき)の布(ぬの)を織(お)り上げてしまうほどだったと。

この昔話を聴く

馬の尻のぞき(うまのしりのぞき)

昔、あるところに博奕(ばくち)打ちがおったと。ある晩、村の在所(ざいしょ)へ博奕を打ちに行ったら、すってんてんに負けてしもうた。夜道をとぼらとぼら歩…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!