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かみなりさまのてつだい
『雷様の手伝』

― 岩手県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 むかし、あるところに一人の男があった。町へ行ってみると苗木(なえぎ)売りの爺(じ)さまがいたから、桃の木の苗木を一木買ってきて、裏(うら)の畑の端(はた)に植えたと。肥料(ひりょう)をやって、水もやり、早くおがれ、というてその夜は寝た。
 次の朝、男は起きてびっくりした。昨日(きのう)植えた桃の木が、一夜(いちや)のうちに、おがるおがる。大きく大きくおがって、天の雲を突(つ)き通(とお)していたと。男は、
 「俺ァ、いつか一遍(いっぺん)天上(てんじょう)を見物したいと思うとった。こりゃあ丁度(ちょうど)ええわい」
というて、その桃の木伝いに天へ登って行ったと。


 すると雲の上に青鬼(あおおに)が二匹控(ひか)えていて、
 「コレコレ、お前は何しにここへ来た」
と訊(き)いた。男は、
 「ここが天なら、雷様(かみなりさま)にあいたいから、雷様のいるところへ連れて行ってくれろ」
というた。鬼(おに)は、
 「ほんだらここを真直(まっすぐ)に行け」
と教えてくれたと。
 
雷様の手伝挿絵:福本隆男


 男が教えられた通りに行くと、大きな家があって、広い座敷(ざしき)の中で雷様が昼寝(ひるね)をしてござった。
 そこへ、こんどは赤鬼(あかおに)が二匹来て、雷様に
 「もしもし、ハァ出かけますべえ」
といいながら向かい合って、火打石(ひうちいし)をカチッカチッと両方から打(ぶ)っつけ合った。すると、ピカッと稲妻(いなづま)が飛び散(ち)ったと。


 雷様はやっと目を覚(さ)まして、
 「野郎(やろう)ども、ずいぶん早くきたな。俺はまだ眠たいぞぉ」
といいながら、大欠伸(おおあくび)をして起き上がった。そして、長押(ながおし)に掛かってあった八ッ太鼓(やつだいご)をとって、ドンドコ、ドンドコ打ち鳴(な)らしながら出てきた。雷様は玄関で男を見つけたと。
 「やあ、お前は見たことのないやつだが、誰(だれ)だぁ」
 「俺は、日本(にっぽん)から来た」
 「あぁそうか。ちょうどよいところへ来た。手が足りなくてどうしようかと思っとったところだ。手伝ってくれ」
 「何をしたらええかいのう」
 「この桶(おけ)の底をブン抜(ぬ)いて、水撒(ま)きをやってくれ」
 雷様はこう男にいうて、雨降らせ役を男に頼(たの)んだと。
 男は桶の底をブン抜いて、雲の上から下界(げかい)へザアザアと水をブンまけた。


 ところが、下界では今稗干(ひえぼ)しの真最中(まっさいちゅう)だったから、爺さまや婆さまたちが、
 「それぁ、神立雨(かんだちあめ)だぁ」
というて大騒(おおさわ)ぎし始めた。
 男はそれが面白(おもしろ)いと見とれていたら、うっかり足を踏(ふ)みはずして、雲から下界へヒューウと落ちてしまった。桑畑の桑の木の枝に引っかかったと。
 
雷様の手伝挿絵:福本隆男


 雷様はその様子を見ていて、大笑いしたと。
 「あの男め、桑の木の枝にひっかかって命拾いしおったわい」
というたら、赤鬼が、
 「稲妻走らせて、あの桑の木燃(も)やしてしまいましょうかい」
という。雷様は、
 「まぁよいわい。久し振(ぶ)りに面白いものを見させてくれた。可哀想(かわいそう)だから、あれには障(さわ)るな」
というた。
 だから、雷様の鳴るときには、どこでも桑の小枝を折ってきて軒(のき)にさすのだそうな。
 
 どっとはらい。

「雷様の手伝」のみんなの声

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