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うまおいどり
『馬追鳥』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところに七(なな)つと十(とお)ばかりになる兄弟(きょうだい)がおったそうな。
 母親が死んで、まもなく継母(ままはは)が来たと。
 継母は性(しょう)のきつい人で、二人を山へ芝刈(しばか)りにやったり、畑へ肥(こ)え桶(おけ)を運ばせたり、谷川へ水を何度も汲(く)みに行かせたり、朝から晩まで働(はたら)かせたと。
 仕事がのろかったり、ちょっと失敗しても、
 「このごくつぶしの役たたず。晩ごはんは抜(ぬ)きだよ」
と言うて、事あるごとに幼(おさな)い二人にむごくあたるんだと。

 
 ある日、継母は二人に、
 「今日は野っ原へ馬を放(はな)しておいで、だけど馬から目を放すんじゃないよ」
と言いつけたそうな。
 二人は馬を曳(ひ)いて野っ原へ行ったと。馬のおもづらをはずして放してやると、馬はのんびり草をはんでいる。
 目でそれを追いながら二人は草の上に寝っ転がったと。
 「兄(あん)ちゃん、今日はこうしていてもしかられないよね」
 「うん」
 「ね、馬は継(つな)いでおかなくても、どこへも行かない?」
 「うん」
 「じゃあ、谷川へ行ってみようか。昨日、水汲みにいったとき大きな魚を見つけたんだ。まだいるかもしれない」
 「だけど、馬から目を放したらしかられる」
 「兄ちゃん、馬はどこへも行かないって言ったよ」
 「うん」
 「ね、行こうよ」
 「うーん」
 「ねえ」


 二人は谷川へ魚を見に行った。夢中(むちゅう)になって遊んでいるうちに、はや、夕焼けが照(て)ったと。
 「そろそろ帰るぞ」
と言うて、野っ原に戻ったら、何と、馬がいなくなっておった。二人はびっくりして、
 「あーほ、あーほ、うまーほ」
と、呼(よ)びながら、あっち探(さが)し、こっち探ししたけれど、どうしても馬の姿を見つけることは出来んかった。
 夕日はとうに山陰(やまかげ)に落ちて、あたりはもうまっ暗になっておった。
 二人は、しかたなく馬のおもづらだけ持って、泣きながら家に帰ったと。そしたら継母は、
 「あれだけ馬から目を放すなと言っといたのに、馬を曳いて来ないうちは、家には入れないよ。探しに行っといで!!」
と、きんきん怒(おこ)って、また追い返したそうな。


 二人は、松明(たいまつ)をふりながら、また野っ原へ行って、
 「あーほ、あーほ、うまーほ。あーほ、あーほ、うまーほ」
と、泣き声で叫びながら探して歩いたと。
 
馬追鳥挿絵:福本隆男

 
 野っ原から森の中へ入って行くと、ギャーゆうて鳥どもが松明に驚(おどろ)いて騒(さわ)ぐし、それがおさまると今度は、ホー、ホーゆうてフクロウが啼(な)くし、木の枝までがザワザワと怖(おそ)ろしげで、
 「あ、兄ちゃん」
 「う、うん」
言うて、二人寄(よ)り添(そ)うて、足がなかなか前に進まんのだと。
 森から山にさしかかった頃には、とうとう松明の火が消えてしもうた。月は出ていたけれども、心細いし、腹は空(す)くし、とうとう疲(つか)れきって、大きな木の根元で折(お)り重(かさ)なって眠(ねむ)ったと。

 
 そうしたら、次の朝、二人は馬追鳥(うまおいどり)になっていたと。
 羽には、馬を探して歩いたときに肩(かた)に掛(か)けていたおもづらの形が模様(もよう)になって残(のこ)ったと。
 夕方になると出て来て「まーお、まーお」と啼くのは、いまだに馬の行方(ゆくえ)を訪(たず)ねているからなんだと。
 
 どんとはらい。

「馬追鳥」のみんなの声

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