― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
採話 佐々木 喜善
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに爺様(じさま)と婆様(ばさま)とがあった。子供がないので、欲しい欲しいと思って神様に願(がん)かけしたと。
ある朝、瓜畑(うりばたけ)へ行って見ると、瓜畑の真ん中に美しい女の子がいた。爺様と婆様は、これは神様が願を叶えて下さったものだと喜んで、女の子を瓜子ノ姫子と名をつけて、大事に育てたそうな。
ある日、爺様と婆様が山へ薪採り(たきぎとり)に行くとき、
「誰(だれ)が来ても戸を開けんな。この辺は狼(おおかみ)がひでえシケに」
といいおいて出かけて行った。
挿絵:福本隆男
瓜子ノ姫子は留守番(るすばん)をしながら、トンカラトンカラ機(はた)を織(お)っていたと。そこへ狼がやって来て、
「瓜子ノ姫子、アスンベカヤ(あそぶべや)」
といった。瓜子ノ姫子は、はじめのうちは黙(だま)っていたが、あまりに誘(さそ)うものだから、
「ダア(だれ)がやァえ、
爺様婆様にクラアレン(なぐられる)ものを」
とこたえた。すると狼が、
「ほんだらとって食うぞ」
とおどした。瓜子ノ姫子は、仕方なく、
「ほんだら」
といって、窓から顔を出して見せた。すると今度は、
「瓜子ノ姫子、戸を開けてがんせ」
といった。
「ダアがやァえ。
爺様婆様にクラアレンものを」
「ほんだらとって食うぞ」
と、また狼がいうので、仕方なく開けると狼はいきなり入ってきて、
「瓜子ノ姫子、さいばん(まないた)出せ」
「ダアがやァえ。
爺様婆様にクラアレンものを」
「ほんだらとって食うぞ」
という。仕方がないので瓜子ノ姫子がまないたを出すと、狼は今度は、
「瓜子ノ姫子、庖丁(ほうちょう)出せ」
という。
「ダアがやァえ。
爺様婆様にクラアレンものを」
「ほんだらとって食うぞ」
というので、仕方がなく庖丁を出した。すると、
「瓜子ノ姫子、このさいばんの上さ寝(ね)ろ」
という。
「ダアがやァえ。
爺様婆様にクラアレンものを」
「ほんだらとって食うぞ」
仕方がなく瓜子ノ姫子は爼(まないた)の上に横になった。そしたら狼は庖丁で、瓜子ノ姫子の頭だの手だの脚(あし)だのを別々に切りなぐって、
「ああウンメヤエ、ウンメヤエ」
と言いながら食って、骨コは縁側(えんがわ)の下へかくして、残ったのを煮(に)ていたと。
爺様婆様は夕方になって帰ってきた。
「瓜子ノ姫子、今帰ったぞ」
というと、瓜子ノ姫子に化けた狼は、
「さぁさ、腹空いたべ、はやく飯(まま)あがっとがれ」
というて、囲炉裏(いろり)へいざなった。
爺様婆様が瓜子ノ姫子を煮た肉汁(にくじる)を、
「ああウンメ、ああウンメ」
と喜んで食うたら、狼は、
「板場の下を見サエ、骨コ置いたが、見ろやエ、見ろやエ」
というて、狼になって山さ、さっさと逃げて行った。
爺様婆様(じさまばさま)は、また二人になったと。
どんとはらい。
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「瓜子ノ姫子」のみんなの声
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