民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 面白い人・面白い村にまつわる昔話
  3. 女房を出す戸口

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

にょうぼうをだすとぐち
『女房を出す戸口』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 小笠原 謙吉
整理・加筆 六渡 邦昭

 むがすあったじもな。
 あるどごに夫と女房があったど。
 夫は、隣の女房が常日(つねひ)ごろ化粧ばかりしているので、ばかにいい女ごに見えただ。惚れだど。
 家(うち)の女房は働くことばかりして身形(みなり)はかまわぬ。みだくなし女に見えた。褪(さ)めだど。

 ある日、夫は女房に、
 「お前はみだくなしだによって、ひまを呉(け)るはへ(ので)と、出て行け」 と言うた。
 そこで家の女房はあきらめで、家を出はって行く気で、湯さ入り、お歯黒をつけだり、髪を結っだり化粧したらば、隣の女房よりも一段とよい女ごになっだ。
 

 
 夫は目ぇぱちくりかえして、ひまを呉でやるのが急に惜しぐなっだど。
 その女房、夫の前さ手をついで、
 「私も今日までお世話になりまして、ありがとうござんした」
ど礼を述べて、
 「それではお前さまも達者でいでくだされ」
 どで、ひまをとり、台所(だいどころ)から土間(どま)の戸口(とぐち)さ行ぐと、夫が来で、その出口さ立ちふさがっだ。
 「ここは俺(おれ)の戸口だがら、ここがら出るな」
と、とめる。女房は表口の玄関さ行って、そこから出べとしたら、夫がそこさも立ちふさがって、
 「ここも俺の玄関だから、こごからも出るな」
 ど言っだ。
 そごで今度(こんだ)ぁ、座敷の縁側から出はべとすたれば、また、そごさもふさがって、
 「こごも俺の縁側だから出るな」
 ど、止めだど。

 
女房を出す戸口挿絵:福本隆男

 女房、あぎれで、
 「それでは出て行ぐ戸口はないがら、私に出て行くなてしか(ということか)」
 ど聞ぐど、夫は、
 「うん出て行ぐな」
 言っだど。


 女房は装(よそお)いをほぐしで、元のとおり家にいるごどになっだら、夫は、それからは隣の女房さ通わねぐなっだど。
 どっとはらい。

「女房を出す戸口」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

惚れ薬(ほれぐすり)

むかし、あるところに商人の番頭さんがおったと。「俺もそろそろ嫁ごを貰わんとならんが、どうせ貰うんなら美しい嫁ごが欲しいものだ」そう考えて、毎日毎日、あちらこちらと商売に行っていたら、あるところで、「惚れ薬」があるという耳よりの話を聞いたと。

この昔話を聴く

納豆の由来、二題(なっとうのゆらい、にだい)

 むかし、加藤清正(かとうきよまさ)が戦で朝鮮(ちょうせん)に行ったときのこと。  陸上では負けしらずの戦いぶりであったが、海上では日本の水軍が負けた。海上封鎖(かいじょうふうさ)されたので、日本からの補給(ほきゅう)がなくなったと。

この昔話を聴く

カンザシをさした河童(かんざしをさしたかっぱ)

紀州(きしゅう)、今の和歌山県西牟婁郡中辺路町(にしむろぐんなかへじまち)に伝わる話をしようかの。ガイラボシというのを知っているかな。ガイラボシとい…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!