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わらびのおん
『蕨の恩』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、あるところにヘビがおったと。
 春のポカポカした日に昼寝をしていたら、土の中から茅萱(ちかや)が芽を出して、とんがった先でヘビの身体を突き通してしまったそうな。
 やがて目をさましたヘビは、
 「フワァア、よく眠(ねむ)ったなあ」
といって、ウーンと伸(の)びをひとつしたら、そこのところがズキンとした。
 ヘビは長物(ながもの)だから、”ズキン”の伝わりかたが遅い。
 節(ふし)のひとつひとつをズキン、ズキン、ズキン、ズキンと伝わって、ようやく頭にとどいたときには、ズキンの元のところが、もう痛くなくなっていた。
 「いま、どこかが痛かったんだがなあ、まるまって寝たせいかなぁ。ま、いいや。どうれ、身体ほぐしにカエルでも喰いに行くか」
と、そろりそろり這い出しかけたら、身体が進まない。
 

 
 「あれ?!」
と、また這い出そうとしたが、やっぱり動かん。
 「おかしいなあ」
と、今度は思いっきり、グニュ―と伸びて這い出したら、そのとたんに、パチンとゴムみたいに縮こまってしまった。
 「あいたたたたぁ!!」
 ようやく茅萱に突き通されているのが分かったと。
蕨の恩挿絵:福本隆男
 

 
 「こりゃぁ、おおごとだあ」
と、尻尾をバタバタさせたり、クネクネしたり、茅萱にからみついたりして、いろいろもがいてみたけれど、どうやっても抜けない。
 ほとほと困りぬいていたら、ちょうど腹の下あたりから、ワラビが萌(も)え出てきた。
 ヘビが困っているのを見たワラビは、
 「ヘビどん、ヘビどん、おらがお前の身体を持ち上げてやるよ。もうすこしのしんぼうだよ」
 そういって、クルリと巻いた頭でヘビを、そろり、そろり、持ち上げた。
 ヘビの身体を突き通していた茅萱は、ワラビの背が高くなるにしたがって抜けていって、やがて、スポンとはずれたと。
 ヘビは大喜び。
 「やれ、うれしや、ワラビどんありがとう」
と礼をいって、振り返り、振り返り頭をさげて、這って行ったと。

 
 昔こんなことがあったものだから、今でも、野原や山でヘビに出会ったとき、

 ヘビ ヘビ
 茅萱畑(ちがやばたけ)に昼寝して
 蕨(わらび)の恩顧(おんこ)忘れたか
 アブラウンケンソワカ

 と、三べん唱えると、ヘビは、ワラビの恩を思い出して、必ず道を開けてくれるそうな。

 どんとはらい。

「蕨の恩」のみんなの声

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感動

ヘビは苦手ですが、やっぱり助けられるとホッとしました????ワラビのおまじない覚えました‼︎( 40代 / 女性 )

楽しい

蛇も蕨も大好き! 民話は教訓的すぎてコワイの多いけどこんな可愛らしい話もあるんですねえ@( 40代 / 女性 )

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