民話の部屋 民話の部屋
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ほねをかじるおとこ
『骨をかじる男』

― 北海道赤平市 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 古い学校には、必ずと云って良い程怪談の一つや二つはある。開かずの便所とか、誰もいない教室からピアノの音がするといった話が多い。―これは、大正の頃のある旧制師範学校での話。
 その師範学校は男子(だんし)ばかりの全寮制(ぜんりょうせい)になっていたそうな。
 ある部屋の寮生(りょうせい)がだんだん顔色が悪くなり、やせて、授業を休んで寮で寝ているようになった。
 同じ部屋の室長が心配して看病(かんびょう)してやったが、病気はますます悪くなるばかり。
 そんなある夜のこと。
 夜中に室長が目を覚ますと、その寮生がいない。
 その夜は気にもせず寝たが、その次の夜も、その次の夜もいない。


 「はて、毎晩、毎晩、夜中になるといなくなる。あんな病気の身体でどこへ行くのだろう」
 室長は気になって、ある夜、寝たふりをして様子(ようす)をうかがっていたそうな。
 真夜中になって、その寮生は、そおっと布団から抜け出すと、同じ部屋の寮生一人一人の寝顔をのぞきこみ、寝息を確かめると部屋を出て行った。
 室長は、気づかれないように後をつけていったそうな。
 階段を下り、渡り廊下をわたって便所に入った。
 「なあんだ、やはり便所か」
 階段を昇って戻るのはしんどいだろうからと、苦笑(くしょう)しながら待ってやったが、いっこうに出て来ない。
 「おい、どうした」
と、便所の戸をたたいても返事が無い。
 倒れていたら大変だから、戸を開けてみた。
 便所はもぬけのからで、窓が開いていたそうな。


 窓から外をのぞいた室長はギョッとした。
 便所の裏手は、ゆるやかな坂道があって、念仏坂と呼ばれるその坂道は、山の中腹(ちゅうふく)にある墓地に続いている。
 寮生は、念仏坂を登って、今、墓地に入ろうとしているところだった。
 室長もあとを追い、墓の陰から寮生のすることを震えながら見ていた。
 寮生は、今日埋めたばかりの新墓を掘り起こし、骨を取り出してかぶりついた。
 ポリ ポリ ポリ ポリ
 骨をかむ音が室長にも聞えて、おもわずあとずさった。そのとき、枯枝(かれえだ)を踏んでボキッと音をたてた。
 「見たなあ―」
 ふり返った寮生のざんばら髪の顔は、何ともいえぬ不気味なものだったそうな。

 
骨をかじる男挿絵:福本隆男
 室長は、どこをどう走ったか、ただもう、怖ろしい一心で部屋に逃げかえり、布団をかぶって身を固くしていた。
 やがて、ミシッ、ミシッと、廊下を歩く寮生の足音が聞こえて来たそうな。


 はじの部屋の戸を開けてのぞきこみ、
 「ここでもなぁい」
 次の部屋を開け
 「ここでもなぁい」
 隣の部屋を開け
 「ここでもなぁい」
 あとはもう室長のいる自分の部屋だけとなった。
 ミシッ、ミシッと歩いて、ギィ―と戸を開けた、そのとたん、
 「ここだあ」
 いきなり室長の布団にまたがり、上からのしかかって来た。
 室長は金しばりにあったように、身動きならず、声も出なかったそうな。
 それでも、ようよう、ギャ―という声をしぼり出した。
 寮生は、病気とも思えぬ速さで部屋を飛び出して行ったそうな。

 次の朝、墓地で寮生の死んでいるのが見つかったと。

「骨をかじる男」のみんなの声

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とてつもなく怖すぎて夢に出てきそう でも民話の部屋の本は面白い 中学校の七不思議おすすめですよ!( 10歳未満 / 女性 )

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