― 群馬県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、昔、大昔、そのまた昔があったと。
上州の信州境(ざかい)に、デーラン坊という大男がおったと。
どんなに大きい男かというと、上州の妙義山(みょうぎさん)から、信州の浅間山(あさまやま)までひとまたぎするほどの大男だったと。
それだけに食事の仕方がものすごい。
いつも浅間山の噴火口(ふんかこう)に大鍋をかけて、木でも草でも片っぱしからひっこ抜いてはぶち込み、その音で驚いて逃げ出す兎(うさぎ)や猪(いのしし)や熊(くま)なんぞを、これまた片っぱしからつまんでは鍋にほうり込んで、グッツグッツ煮て食べるんだと。箸(はし)は枝をはらった杉の木二本、指の間にはさんだっちゅうぞ。
腹いっぱいになると、妙義山のそばの荒船山を枕にして、足の裏を浅間山の噴火口であぶりながらいい気持で寝るんだと。
ところが、このいびきの音がまたなんと、大雷が空いっぱい絶えず暴れまわっているようで、上州と信州の百姓はすこしも眠れん。
朝になって、デーラン坊が起きがけにひとつくしゃみをすると、上州の百姓家が千戸も万戸もいっぺんに空へ舞い上ったっちゅうぞ。
あるとき、このデーラン坊が、
「むううん」
と、寝返りを打ったから大変。浅間山の噴火口にかけておいた大鍋をけとばしてしまった。
とたんに、ぐわぁっと恐ろしい音がして、上州も信州も一面に灰かぐら。浅間山の灰が何メ―トルもふたつの国に積もったのは、このときだそうな。
おまけに鍋の中の汁と中味が恐ろしい勢いで信州側(がわ)へこぼれてしまった。このために信州側では草も木もすっかり枯れてしまって、何百年も生えなかったと。
今、信州の塩つぼ温泉などが塩っぱいのは、このときの汁が土にしみこんで、今もって出てくるからだそうな。
これっきり。
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むかし、むかし、あるところに歌の三郎と笛の三郎という若者が隣合って住んでいた。歌の三郎は歌が上手で、笛の三郎は横笛が上手だった。二人は、もっと広い世界で芸を試してみたくなった。歌試し、笛試しの旅へ連れだって出かけたと。
「上州のデーラン坊」のみんなの声
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