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こがたなじゅみょう
『小刀寿命』

― 岐阜県 ―
語り 平辻 朝子
再話 大橋 和華
整理 六渡 邦昭

 昔々なも。
 あるところにひとりの六部(ろくぶ)さんあって、方々(ほうぼう)旅をして回っていたそうだわな。
 
 あるとき、淋(さび)しい田舎(いなか)の道へきてなも、
 「まあ日は暮(く)れかかるし、こりゃ困(こま)った」
と言うて、なお道を登って行きよったら、都合(つごう)のいいことに観音様(かんのんさま)のお堂(どう)があってなも、
 「ここで今夜(こんや)ひと夜さ明かさしてもらおう」
と、そこへ入ったと。

 
 荷を下ろしてうつらうつらしておるとなも、外で馬の蹄(ひづめ)の音がして、お堂の前で止まった。そして、
 「わしは山の神だが、隣(となり)の村で子供が生まれたということだで、見に行くとこだ。一緒(いっしょ)に行くかね」
と、声がした。
 すると、お堂の中の観音様がなも、
 「そうか、わたしは今夜はお客(きゃく)さんがいて行かれん。すまんですが、あとで教えてくれ」
と言うた。
 「そうか、そいじゃあ行って来る」
と言うてなも、パカパカと行ってしまわれた。


 しばらくしてから、パカパカと戻ってきてなも、
 「行ってきた」
 「どうでした」
 「丈夫(じょうぶ)な、丸々(まるまる)した男の子が生まれた。とても喜んで見えたけれど、かわいそうなことに小刀寿命(こがたなじゅみょう)だ」
 「そうですか。それはかあいそうなことだ」
と、山の神様と観音様とで話しておいてなも、また、パカパカと馬の蹄の音さしてどこかへ行ってしまわれたと。 六部さんは、それを夢うつつで聞いとった。
 そのときは、それほど気にもかけんと聞いとって、やがて疲(つか)れてぐっすり眠(ねむ)ったと。

 
 目を覚(さ)ましたときにゃあ、もう明かるうなっとったげなもんで、峠(とうげ)を越(こ)して、下へ降(お)りて行くっちゅうと、ある家で、おかみさんがとても喜んで出て来てなも、
 「六部さん、家では男の子の丈夫い子おが生まれたで、お赤飯(せきはん)ふかしたでどうかあがって下さい」
と、言わげったもんでなも、
 「そうか、そりゃよかった」
ちゅうて、六部さんもお赤飯よばれたと。
 
 それからまた旅をずうっと続けて、十三年目にそこへ回ってみえたそうだわな。
 そいでまた、その家へ立ち寄ったそうだ。
 そうしたら、その日はみんなが沈(しず)んで悲しそうにしている。
 「どういうわけだ」
って、尋(たず)ねると、
 「今年十三になる息子(むすこ)が死んでしまった」
と言う。


 「いったい、どういうふうにお死にた」
ときくと、
 「池の畔(ほとり)で小刀を研(と)ぎようてたら、虻(あぶ)が一匹飛んできた。その虻を追(ぼ)おうとして小刀を振(ふ)りまいたら、あやまって小刀が喉(のど)に刺(さ)さってなも、そのために死んでしまった」
と言うて、悲しがりよう居でたげな。
 「そりゃあ気の毒(どく)なことやった。そういえば、十三年前、ここの山のお堂で一夜寄(よ)せてもらったときに、山の神様とお堂の観音様とで、これこれこういう話をしてお行きたが・・・・・・」
と、そのときの話をしてなも、
 「寿命は生まれたときから決まっとったかのう」
って、六部さんはそう言って慰(なぐさ)めてなも、そして、ご供養(くよう)して立ち去(さ)ったと。

 しゃみしゃっきり。

「小刀寿命」のみんなの声

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