民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 伝説にまつわる昔話
  3. 土仏観音

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

どぶつかんのん
『土仏観音』

― 福井県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、越前(えちぜん)の国、今の福井県の ※1坪江村(つぼえむら)に ※2滝沢寺という小さな寺があって、和尚(おしょう)さんが一人住んでおった。
 この和尚さんが京の都で修行をしておったときのこと、道ばたに十八人の子供達が集まって、泥だんごをこねておったそうな。
 あまりに楽しそうなので、和尚さんが興味(きょうみ)深げに見ておると、子供たちは、泥だんごで見る間に二十三体もの観音像(かんのんぞう)を作ってしもうたんだと。
 
 
  ※1 現在は「あわら市金津町(かなつちょう)御簾尾(みすのお)10-12」となります。
 ※2 正式名称は「曹洞宗 平田山 龍澤寺(そうとうしゅう へいでんざん りゅうたくじ)」という名称になります。
 
 
 

 
 「ほほう、これはこれは、いや何とも見事な観音(かんのん)さまが出来上がったものよ。とても、子供がこねたものとは思えんのう。
 どうじゃろな、この和尚に、ひとつ、分けてくださらんかのう」
 和尚さんが、頭を低うして子供達に頼んでみると、
 「いいよ、はい、これ」
というて、一番出来のいい観音様をくれたと。
 和尚さん、すっかり嬉しくなって、
 「ありがとう」
とおじぎをして頭をあげたら、ありゃ不思議。そこにはだあれもおらなんだ。
 和尚さんは、
 「これは、きっと、仏様(ほとけさま)が下されたのに違いあるまい」
と思うて、泥をこねて作った観音様だから、土仏観音(どぶつかんのん)と名前をつけて、肌身(はだみ)離さず持ち歩くようになったと。


 さて、ある年のこと、和尚さんは旅に出たそうな。
 そしたら、山の中で道に迷うてしもうた。あちこち歩き回っているうちに、日がとっぷりと暮れて、ほとほと困ったと。

 どれほど歩いたか、ふと見ると、木だちの間に、明かりが見えた。ようよう訪ねて、
 「道に迷うて難儀(なんぎ)しております。一晩、お宿して下さらんか」
と頼んだら、中にいた、ひげづらの男とその女房は、気持ちよく迎(むか)えてくれたそうな。 
 和尚さんは、ほっとしたのと疲れとで、すぐに、ぐっすりと眠りこんだと。
 そしたら、それを見た二人は、ニヤリと笑って、
 「久しぶりの獲物(えもの)じゃ。ふところがあんなにふくらんどるのは金をたんまり持っているからに違いねぇ。殺して盗(と)っちまおう」
と、顔を見合わせた。
 何と、この山家(やまが)は山賊(さんぞく)の住み家(すみか)だったと。
 ひげづらの男は刀を抜くと、眠っている和尚さんの首を、スポンと切り落としてしもうた。


 「こうしておけばよい。後の始末(しまつ)は明日にしよう」
というて、二人はそのまま寝(ね)てしもうた。

 さて次の日の朝。
 二人がまだ眠っていると、お経を読む声がする。
 ハッとして目をさますと、なんと、目の前に、殺したはずの和尚さんが座っておった。
 「ゆ、ゆ、幽霊(ゆうれい)だ! か、か、か、勘弁(かんべん)してくれぇ!」
 二人は、がたがた震えて手を合わせた。
 「二人とも、何を寝ぼけているのです。いくら坊主でも、幽霊とはひどい話だ」
 「し、しかし、わしは夕べ(ゆうべ)、確かにお前の首をこの刀ではねたんじゃぞぉ」
 「そんなら、どうして私は生きておるのだ。さては、もしかしたら……」


 和尚さんは、ふところから観音様をとり出してみて、「あっ!」と驚(おどろ)いた。観音様の首すじに刀の傷跡(きずあと)があって、今にも首が落ちそうになっておった。
 「やはり、観音様が私の身替(みが)わりになって下さったのか」
 和尚さんが手を合わせてお経を読むと、それを見た山賊の夫婦は心から改心して、それから後(のち)は、札所巡り(ふだしょめぐり)をして、一生を過ごしたそうな。
 ※3 土仏観音(どぶつかんのん)は、今でも滝沢寺にまつられてあるそうな。

 そろけん ぶっしゃれ 灰俵(はいだわら) 
 
 
 ※3 現在も5センチほどの大きさの土仏観音はまつられており、 「泥仏」「小便仏」「身代わり仏」ともよばれています。
 

「土仏観音」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

残酷( 10歳未満 / 男性 )

驚き

本当にあったお話なの!?あの子どもたちはだれ?今でもその観音様はいるの!すごい!( 10歳未満 / 女性 )

驚き

いい観音様で良かった。観音様って本当にいるのかな。もし、ほんとうにいたら、怒ってる観音様とか、笑ってる観音様とか、意地悪な観音様とかいるのかな。( 10歳未満 / 男性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

大望は五厘損(たいぼうはごりんそん)

昔、あるところに乞食(ホイト)があったと。ホイトは京都の清水(きよみず)さんに鴻池(こうのいけ)の聟(むこ)にして下さいと願をかけた。縁の下に這入(…

この昔話を聴く

河童岩(かっぱいわ)

むかし、ある川の中に一ぴきの河童が棲んでいたと。ある時、子供達が大勢集まって、川の中に白い小石を投げ込んでその小石を取りあいっこしては遊んでいた。す…

この昔話を聴く

風の神と子供(かぜのかみとこども)

とんと昔あったと。ある秋の日、村の鎮守様(ちんじゅさま)のところで子供たちが遊んでいたと。そこへ、村ではついぞ見かけたことのない男がふらりとやって来…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!