― 愛媛県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、愛媛の西宇和郡三崎町(にしうわぐんみさきちょう)というところに藤吉(とうきち)という猟師(りょうし)がおったげな。
ある日、山へ行きよると、狸の穴があった。
藤吉はうれしゅうなって、
「ようし、今日は狸をとっちゃろ。一匹とれば一日まんまが食べられる。二匹とれば二日まんまが食べられる。五匹で五日、ほっほう」
と、とらぬ狸の皮算用(かわざんよう)したと。
そこでさっそく、木(こ)の葉をくすべながら、穴を掘りよった。
ところが、なんぼ掘っても何も出て来ん。
「はあて、狸はおらんのかな」
と思っていると、ふいに穴の中から立派な侍(さむらい)が出て来て、
「藤吉、ごめん、とおるぞ」
と言うたもんだから、藤吉はたまげて、
「へへぇ-っ」
と、頭を下げた。
ほして、頭を上げようとすると、また侍が出て来て、
「藤吉、ごめん」
「へへぇ-っ」
頭を上げるとまた一人、また一人、藤吉はへへぇっ、へへぇっと頭を下げては上げ、上げては下げ、七人の侍におじぎをしたそうな。
そのたんびに、いぶしている煙の中へ顔を突っ込んだもんで、ゴホン、ゴホンむせて、
「ああ、苦し」
と、涙流して、胸をたたいて、「はてな」と思うた。
「何で、こないなところからお侍さんが出て来よる」
どう考えてもおかしい。そこで、あわててのびあがって向こうを見ると、七匹の狸が、頭にシダの葉っぱを乗せて、逃げて行くところやった。
「ありゃ、七日分のまんまに逃げられた」
藤吉はそう言うて泣いたとや。
何とあほうな猟師と、りこうな狸がおったもんぜなあし。
むかしこっぷり。
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