― 千葉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、海べの村に、ひとりの婆さんが住んであった。婆さんは毎日浜へ出ては貝(かい)などを採(と)り、それを売って暮らしていたと。
ある日のこと、婆さんが浜へ行くと、大きな蛸(たこ)が潮(しお)のひいたのも知らないで、昼寝をしていた。婆さんは、
「こりゃ、ええもん見つけたぞ」
と、さっそく蛸の脚を一本庖丁(ほうちょう)で切って、籠(かご)に入れ、急いでその場から逃げた。
家に帰って食べてみると、とてもいい味がした。
次の日、また、浜へ行ったら、昨日と同じところに、あの蛸を見つけた。また寝ているふうだ。そろり、そろりと近づいて、庖丁でスパッと蛸の脚一本切り離(はな)し、籠に入れ、急いでその場から逃げた。そして、その蛸の脚を町へ売りに行くとすぐに売れたと。
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、と毎日浜へ行っては蛸の脚を切ってきて、とうとう七本も切ったと。
その蛸、残る足は一本だけとなったと。
婆さん、残る一本も切ってくれましょう、と思い、次の日も浜へ行った。居(い)た。
婆さん、切ったら足を籠に入れるか、頭を籠に入れるか迷ったと。
そろり、そろり近づいて、庖丁を突き出した。その時、蛸は一本の脚で婆さんにからみつき、すごい力で海の中へ飛び込(こ)んだと。
婆さんは、必死になって、
「助けてぇ、助けてくれろぉ」
と、大声で叫んだ。
聞きつけた漁師(りょうし)が駆(か)けつけると、あら遅(おそ)や。
蛸は婆さんをひきつれ、墨(すみ)を吐(は)いて海の中深く潜(もぐ)ったあとだった。
婆さん、蛸の足七本と引き替え(ひきかえ)に、己(おの)が命(いのち)亡(な)くしたと。
おしまい、ちゃんちゃん。
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「蛸の脚七本」のみんなの声
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